エピソード3 『イエスの子らよ』
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- 2023年3月3日
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今度は、見張りの神父さまが私に言ったわ。若いわね、ここの神父さま。
「長旅ごくろうさま。
疲れているとは思うが、まずは礼拝堂でお祈りをしなさい。
それが済んだら、温かいオムレツを出してあげよう。」
「お母様よりは、優しい人ね。」私はクスっと笑って言った。
「君のお母様も、優しい人ですよ。」
「そんなわけないじゃない。
一度も振り返らずに、行っちゃったわ。」
「それが、優しさなのです。
お母様がなごり惜しむ姿を見せたら、君はもっとなごり惜しくなる。
お母様が涙を見せたら、君はもっと泣きたくなる。
そっけないほうが良いのです。別れというのは。」
神父さまの言うことは、
当時の私にはまだ、あまりよくわからなかったわ。
神父さまは、大きな木の扉を開けた。
うわぁ!
とても大きな教会だったわ。私の町の教会の、3倍くらいはある。
天井がとても高いの。窓から差し込む光は、まるで天国への階段みたい。
でも、装飾はそっけない。お金が足りなかったのかしら?
でも、「質素ね」とか言ってはダメなのよ。修道院では失礼のないように振る舞わなきゃ。
私は祭壇までいくと、ひざまづいて、イエス様に祈りをささげた。
「さぁてと。
神父さま、オムレツはどこ?」
「ここからは修道女に引き継いで、寄宿舎を案内させよう。
オムレツは、食堂で食べられるはずだよ。
…それと、
私は神父ではありませんよ。一介の修道士にすぎません。
男性の修道者のことを、修道士というのですよ。
ではこれで。ごきげんよう。」
教会には、前方にも出入り口があったわ。
そこに、修道女のおばさまが待ちかまえていた。
「あなたがマリアンヌね?ようこそおいでなさって。」
「どうもありがとう。」
「あなた、お年はいくつなの?」
「10才になりました。」
「そう。なら幼年棟ね。
…10才ですって!?ずいぶん幼く見えるけど、
あなた、栄養は足りているの!?」
「そうなんです。私、オムレツが足りていないんです。」
「まぁ!それは大変だわ!
すぐにお食事の支度をさせますけど、
まずはお部屋に荷物を置いて、着替えてらっしゃい。
修道院では、服装が決まっているのよ。」
『イエスの子らよ』