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エピソード3 『守護天使 -愛と奉仕の物語-』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年4月1日
  • 読了時間: 2分

エピソード3

私の話に戻りましょう。

私は当時、公園の木陰に転がる、小さな小石でした。

公園で遊びまわる子供たちを、日がな、そこから眺めていました。

私は、子供たちがうらやましくてたまりませんでした。

私もその手のひらを空にかざしてみたい…

私もその足で駆け回ってみたい…

うらやましくてたまりませんでした。


また、時々は、同僚たちを羨みました。

特に、砂場の近くに転がる小石などは、

時たま、子供たちの目に留まるのです。そして、拾ってもらえるのです。

子供たちは、宝物のようにそれを磨いてみたり、

遠くへ飛ばしっこしてみたりします。

つまり、遊んでもらえるのです。


しかし私は、

公園の隅っこの、しかも木陰に落ちる、目立たない小石でした。

誰も、誰ひとりとして、

私には気付きませんし、遊んでもくれません。



そんな折りのことでした。

あれは、夏も近づく暑い日だったと思います。

缶ケリに興じる男の子が、私のそばの木に、よじ登っていきました。

枝は地上1.5メートルくらいのところから伸びているので、

そうとうに腕力のあるわんぱくな子でないと、登れっこない木です。

実際、それまでは、ほとんど誰も登ったことのない木でした。


私は、彼が鬼に見つからないように、「がんばれー」と応援し、

一緒になってワクワクドキドキしながら、戦況を見守っていました。


彼は、とても賢い子でした。

対極のトイレの裏に、他のお友達が隠れたのを、横目で見ていたのです。

鬼が、そのお友達を探すためにトイレのほうに駆け寄っていくタイミングを、

今か今かと見計らっていました。

私はとてもワクワクしました!


鬼が、最も缶から遠ざかったその瞬間…

「今だ!」

彼は、忍者のようにさっと地上に飛び降りました。

膝のバネを巧く利かせて、軽やかに着地すると、

そのまま缶まで一気に駆け出し…


は、しなかったのです!

着地した瞬間、私と彼は、目が合いました。

…私に目なんてありませんが、感覚としては、まさに、目が合う感覚です。

ドキっとしました。石でも、ドキっとするのです。

100年も生きてきて、初めて誰かに見つめられたのですから、

それはもう、ドキドキしてしまうのです。


彼は、何を血迷ったのでしょう?

せっかく、カッコよく缶を蹴り飛ばし、ヒーローになれるチャンスだったのに、

そこで下を向いたまま、固まってしまったのです。


そうです。

私をじーっと見つめているのです。

そして、「キミ、可愛いね」とつぶやき微笑むと、

私を拾って、ポケットに仕舞うのでした。



まさしく、

白馬の王子様に連れ去られたお姫様の気分です!!


『守護天使 -愛と奉仕の物語-』

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