エピソード4
ある日父は、
私たち家族をリビングに集めて、家族会議を開いた。
「おまえたちに話がある。とても重要な話なんだ。
実はな、父さん、
カリブ海の開拓地の診療所に、応援を頼まれたんだ。
島の診療所で、患者を診てほしいと、な。」
「あなた!それって…」母は悲鳴のような声をあげた。
「そうだ。島流しだろう。
スペインの医療協会は、私の存在を疎んでいるからね。」
「父さん、それにヘコヘコ従うっていうの!?」アントニーはトラのような顔で言った。
「父さんは、それでも良いかなと思っている。
どうせスペインにいても肩身は狭いし、居心地は悪いからね。」
「あなた!」
「いいんだよ。あまり悲観していないんだ。本当に。
しかし問題は、おまえたちだよ。
アマラやアントニー、タニア、おまえたちのことを心配している。」
「友達と離れるの、さみしいわ。」私は肩をおとす。
「そうだろう?引越しは何かと苦労を伴う。
それをおまえたちに強要するのは、父さんも気が引ける。
父さんが一人で赴任するという選択肢もあるんだ。
それはそれで、苦労や寂しさを感じさせるかもしれないが。
とにかく、この件について、考えておいてくれるかい?」
アントニーは、案外すぐに結論を出した。
この都会の町よりも開拓地のほうが、勉強が楽だろうと考えたのだ。
男たちは、移住に傾いている。
それに伴い、女たちの決定も促されることとなった。
母は、「あなたについていくわ」というシンプルな結論であった。
そして私はというと、
友達と離れるのはたしかに寂しかったけれど、
かといって、アントニーと離れるのはもっと寂しい気がした。
家族4人が、移住の方向で固まった。
1つだけ、問題が生じた。
人魚の絵を、どうしようか?
親戚のいずれかに預ければ良いものかと思えたけれど、
父は、「持っていく」と言った。
愛用品という愛用品を軒並み置いていった父であったけれど、
人魚とは離れたくなかったらしい。
『人魚たちの償い』
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