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エピソード4 『全ての子供に教育を』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月14日
  • 読了時間: 2分

エピソード4

翌日は土曜日だった。休日だ。

この霊聴が、実際はノイローゼによる幻聴であるとすれば、

充分な休息が取れる。

俺の人生に新風を吹かす、霊聴とやらなのであれば、

充分な会話時間が取れる。

どの道、有意義だ。


とは言えヤツは…ハックは、

ほとんど俺に話し掛けてはこなかった。

俺が話し掛けても、応じなかった。


無趣味な俺の休日なんて、TVゲームをするくらいしかない。

それか、テレビだ。

フィギュアを愛でたりはしない。

…興味が無いわけではないが、

あんなものを飾っていると、親父に殴られる。お袋に泣かれる。



夜、バラエティ番組を見ていた。

紳助がバカなタレントをいじくっている。

急にコーナーが変わる。

「新コーナー!『全ての子供に 教育を!』」

紳助が、威勢よくタイトル・コールをする。

画面はVTRに切り替わり、発展途上国の子供たちが映る。


なんでも、紳助は、

貧しい村々に、学校を設立しようとしているらしい。



コレだ!

『全ての子供に 教育を!』

俺の頭の中で、全てが繋がった。


タイも発展途上国だ。貧しい国だ。

そして、学校すらないような山間いの貧村がある。俺はそれを知っている。

学校を設立するなんていうのは、いかにも奉仕だ。

幸い、金ならある。

それに、その気になれば、数学くらいは俺が教えてやれる。



俺は、ものすごく興奮した!熱いモノがこみ上げてきた!

全てが完璧だ。そう思えた。


俺は早速、横でビールを飲んでいる親父に、

転職先の内定を蹴り飛ばしたい旨を、打ち明けてみた。

「父さん。俺、しばらくゆっくりしようと思うんだ。

 再就職も、考え直そうと思ってる。」

「駄目だ。」

即答だった。まるで俺の切り出しを予測していたかのように。

「え!?」

「駄目だ。と言ったんだ。」

威圧感たっぷりの野太い声で言う。

「理由も聞かずに突っぱねんの?せめて理由くらい聞いて…」

「理由を聞いて何になる?

 どうせお前、本当のことは言わないだろう。若者の心理くらい、察しがつく。

 ただ怠けたいんだろう。そうに決まっている。」

「…わかった。ちゃんと再就職するよ。」


『全ての子供に教育を』

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