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エピソード5 『トランク1つで生きていく』

エピソード5


愛子さんは精力的に運転を続け、ついに九州を抜けた。

本州に入ってすぐのところ、壇ノ浦のパーキングエリアに車を停めると、

「今日はここで寝ましょう」と言った。

壇ノ浦のパーキングエリアも、ただならぬ喧騒があった。

少なからず地震の影響を受けているらしいことがわかる。

けれど、熊本の比ではない。PAの食料品が売り切れていたりはしない。

ここまで来れば、もうカンパンも水も必要ないような気がする。

幸いにも食べ物はたくさんあるのに、

私はあまり食欲を感じていなかった。お手洗いだけ借りることにした。


車に戻ってみると、愛子さんはなにやら作業に励んでいる。

後部座席に積んであった家財道具を、外に運び出していた。

「二人分の寝床、作らないとね。」

「家財道具、外に置いてていいんですか?」

「誰も盗りゃしないわよ。こんなの。」あまり心配しないタチらしい。

私はそのまま、愛子さんの車の中で夜を明かした。



翌朝、甘いバターの香りで、私は目を覚ました。

愛子さんは横にはいない。もう起きているらしい。

外に出てみると、愛子さんは車の横で、料理をしていた。

カセットコンロに小さなフライパンを乗せ、フレンチトーストを焼いてるらしい。

「料理するんですか!?」おはようも言わずに、私はその光景をツッコんだ。

「あらおはよう。眠れた?

 自炊するわよ。外食ばっかりじゃ高くつくわ。

 いつもは朝からフレンチトースト焼いたりしないけどね。特別?あなたいるから。」

「ありがとうございます。

 でも、パーキングエリアで料理とかしてて、怒られないんですか?」

「あっはは。知らないわ。法律はどうなってんのかしらね?

 怒られたことないけど、怒られるのも面倒だから、端っこでやってんのよ。」

「軽いですね…。」

「まぁ、怒られるとしても、いきなり捕まったりしないわよ。注意されるだけでしょ。

 そしたら素直にやめりゃいいのよ。

 ちょっとは迷惑かけちゃってるかもしれないけど、大して迷惑かけてないでしょ?

 いいんじゃない?それなら。

 迷惑かけないようにするのは、大事よ?ゴミとか捨てちゃダメ。」

善人だか何なのか、よくわからない。


愛子さんの食器は、どれもこれも木製のものだった。

「ナチュラルでかわいいですね。」と言ったら、

「美的な問題じゃないのよ」と彼女は答えた。

「木の器だったら、落としても割れないでしょ?

 地震とかで食器棚倒れても、木の器なら割れないからね。

 アタシの城(=車)は地震で倒れるとかそうそうないけど、

 食器に気を遣いはじめたのは、車生活する前からよ。東北地震のときね。

 阪神大震災のときは、震災とかって他人事だったけど、

 東北地震のときは、『アタシも震災対策考えなきゃな』って、思ったわ。

 そう考えたら、陶器の食器とか買ってらんないわよ。高級品もバカバカしいわ。

 真っ先に割れるでしょ?絶対割れちゃう。買い換えるのバカバカしいし、

 地震のあとに食器無いなんて、不便じゃない。

 そしたらプラスチックか木の器ってことになるでしょ?

 プラスチックはあまりに安っぽいから、そしたら木の器よ。」

やっぱり頭が良いんだ。この人は。

私は、昨夜の我が家の無残なダイニングキッチンを思い出しながら、

羨望のまなざしで愛子さんを見つめた。



『トランク1つで生きていく』

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