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エピソード5 『沈黙のレジスタンス』

引越した先は、セルチュクという町だった。

デニーの言うとおり、西にある町で、大都市イスタンブールからも遠くない。

この町の近郊に、エフェソスという遺跡が見つかった。

僕の父は、その発掘作業に駆り出されることになったのだ。


セルチュクは、大きな町だった。

大都市とも言えないが、僕のもといた村よりは、ずっと大きな町だった。

中心には広場があり、立派なモスクが面している。

教会とモスクの違いはあれど、

いわゆる、スペイン式の、西洋の造りの町であった。

住人の服装もあかぬけていて、ガットキアのそれとは違った。

母親たちはそう太ってはおらず、さわやかな色の服を着ていた。

父親たちが怒りっぽいかどうかはわからないが、いくぶん知的な顔立ちに感じられる。

文化的にも血筋的にも、ヨーロッパの風が混じっているらしかった。

広場の近くには大きな市場があり、

整然と区画された敷地で、いろいろなものが売られている。

ガットキアでは見たことのないものが、たくさんあった。

しかし、一番衝撃を受けたのは、他でもない。

キノコ岩がまったく無いということだ。

僕は、世界中どこでも、キノコ岩に覆われているのだと思い込んでいたので、

「何の変哲もない町並み」ということがむしろ、とても奇景に感じられた。

「外の世界を見てこい」というのは、こういうことだったのか!

デニーの言わんとしていたことが、ようやくわかった気がした。


僕はときどき、父親の発掘現場についていった。

エフェソス遺跡は、古代ギリシャ様式の遺跡だった。

セルチュクの町並みとはまた異なる町並みがあることを、知った。

もはや骨しか残っていないが、

ガットキアともセルチュクとも異なることは、わかる。

僕は自然と、考古学というものに興味を持ちはじめた。


セルチュクには、立派な学校があり、立派な図書館があった。

ガットキアには無かったものだ。あの村では、算数と国語しか学べない。

デニーの代わりに出来ることは何だろうか?

デニーと離れて出来ることは何だろうか?

そう考えて出てきた答えは、「勉強」であった。

「学を付けよう」僕は思った。特に、考古学を。



『沈黙のレジスタンス』

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