エピソード5
私は、帰りの電車の中で、ぶつぶつと考えていた。
彼とたくさんおしゃべりするためには、ファンの数は、少ないままのほうが良い。
ファンが増えてしまえば、一人ひとりに話しかけられる時間は減るし、
もっと増えてしまえば、ファンとの交流自体が、出来なくなってしまうだろう…
うーん。それは困る。
私は、彼とおしゃべりがしたい。今よりもっと、もっともっと、おしゃべりがしたいんだ。
じゃぁ、ファンは少ないままのほうが良いんだろうか?
いつまでもずっと、こんなコジンマリな感じで、ライブを続ければ良いんだろうか?
うーん。それは困る。
私は、彼の音楽は、もっと大勢の人に聴いてもらいたい。そうあるべきだと思う。
それに、彼には、音楽だけで生活できるようになってほしい。
今はまだ、アルバイトか何をせっせとこなしているはずだ。
たった10人のお客さんじゃ、収益があるのかどうかすら、疑わしい。
(ライブ出演には「ノルマ」というのがあって、一定数の観客を動員しないと、
全く収入にならないのだ。収入にならないどころか、何万も出費になるのだ。)
うーん。困った。
私のためになることは、彼のためにはならず、
彼のためになることは、私のためにはならないみたい。
私の幸せと彼の幸せ、
優先すべきなのは、どっち…?
『私の彼は有名人』