エピソード5 動物愛護
「小鳥さんを飼いたい!」
キャロルは最近、そればかり言っている。
幼稚園で小鳥の映画を見て、触発(しょくはつ)されてしまったらしい。
小鳥を買ってほしいとねだるが、両親はそれには応じようとしない。
「わたしがお世話するから!」とキャロルは言うが、それでも応じない。
どうせ1ヶ月もすれば飽きてしまい、
親に世話番が押し付けられることは、目に見えているからだ。
エサ代だってバカにならない。
ミシェルは、
キャロルをウィリアムスの秘密基地に連れていってやることにした。
「ウィリアムスさん、ここで小鳥でも飼ってみたらどう?
うちのキャロルが小鳥を飼いたいんだって。でもパパもママも許してくれないの。
どうせ世話をしなくなるからって。
ここだったら人がいっぱいいるから、だれかしら世話できるんじゃない?」
「小鳥か!動物とじゃれあうのは良いことだね。
でもここでは飼えないな。僕はどんな子供でも受け入れるけど、
動物を受け入れるつもりはないんだ。」
「どうして?」
「動物を、愛しているからさ。」
「???」
ウィリアムスに頼ってもらちが明かないとふんで、
ミシェルは、ナンシーに相談してみることにした。
「ウィリアムスさんったら、小鳥の1匹も飼ってくれないのよ。
あんがいケチなのね、あの人。」
「そうなの?お金が無いって言ってたの?」
「ううん。そうは言わないわ。
動物を愛してるから、動物は飼わないんですって。意味わかんない。」
「ははーん。なんとなく、わかったわ。
そうね。じゃぁ私が協力したげる。」
ナンシーは、場所をミシェル家の裏の林へと移した。
そしてそこで、3人で鳥の巣箱作りをはじめた。
小枝をたくさん拾ってきて、それを並べてしばり、丸太小屋のような造りにした。
屋根は落ち葉を無数にかぶせる。
ナンシーは、不意にキャロルに問いかけた。
「ねぇキャロル?
あなたももう、恋愛ってものが少しはわかるわよね?」
「もちろん!」キャロルは澄(す)まして答える。
「それじゃ聞くけど、
可愛いだけで人さわがせなワガママギャルを養ってる男って、
あなたどう思う?カッコイイとおもう?」
「ダサダサよナンシー。
女は顔じゃないわ。中身のある女を選べない男なんて、ダサダサよ。
可愛いだけの女に1万マルッカも使う男なんて、バカみたい。」
「うふふ。そうね。私もそう思うわ。」
工作の好きな3人は、巣箱作りそのものが面白くなってきてしまい、
最終的には、3階建てのとてもりっぱなアパートメントになってしまった。
「これなら、小鳥さんみんなでお茶会できるわね」ミシェルがウィンクすると、
主役のキャロルは上機嫌(じょうきげん)になった。
ミシェル家の2階の部屋から見える場所に、巣箱はすえつけられた。
ナンシーは巣箱のそばにエサ台を置き、リンゴの切れはしを散らばせた。
翌日の朝5時、
3人は眠い目をこすりながらも、巣箱の観察に目をかがやかせた。
「あ!来てる来てる!もう来てる!」
キャロルの願いは通じ、すでに幾羽(いくわ)かのスズメが遊びに来ていた。
「ねぇ?つかまえてきてもいい??」キャロルは興奮(こうふん)気味に言った。
「まぁまぁ、少し様子をながめてみましょうよ。」ナンシーはなだめる。
ちゅんちゅん ちちち
ちちち ちゅんちゅん
「うれしいけど…でも残念!」キャロルは片ひじをついてしょぼくれている。
「どうして?」ナンシーは尋ねる。
「リンゴは食べてるけど、
でも、せっかく作った巣箱には、ぜーんぜん入ってくれないわ。」
「そう?入ってるじゃない?」ミシェルは言う。
「よく見てよお姉ちゃん。
巣箱に入ったって、すぐに出てきちゃうわ。1秒か3秒よ。」
ナンシーは言う。
「うふふ。キャロル。そういうことなのよ。」
「え?」
「鳥さんってね、閉じ込められるのは嫌いなの。
めずらしい巣箱、ちょっとはのぞいてみたいし遊んでみたいけど、
でも、ずーっと入ってると息がつまっちゃうの。」
「そうなの?」
「そうよ。だから、10羽もいるのに、だーれも長居(ながい)しないでしょ?
鳥さんだけじゃないのよ。動物はみんなそう。オリなんてきらい。」
「ふうん…。」
「さてと。
キャロルは小鳥さんを飼いたいんだったわよね。
3秒もあればじゅうぶんよ。巣箱の中に入ってる間に、
私が1匹か2匹はつかまえてきてあげるわ。キャロル、あなたも一緒にいく?」
「ううん。いいわ。」
「そう。じゃぁ私、一人で獲(と)ってくるわね。」
「そうじゃなくて。ナンシーも獲りに行かなくていいよ。
わたし、わかったわ。
鳥さんを飼うなんて、そんなのワガママすぎるってことよ。
どれだけりっぱなカゴを用意したって、どれだけリンゴをたくさんあげたって、
そんなの鳥さん、うれしくないのよ。鳥さんのためにならないのよ。
いっくら鳥さんが可愛くて可愛くて、いつも一緒にいてほしいとしても、
鳥さんを家に閉じ込めようとするなら、そんなのワガママだってこと。」
「『僕は動物を愛してるから』ってウィリアムスさんが言ったのは、
そういうことだったのね!」ミシェルは指をパチンと鳴らした。
「そうよ。
鳥さんのこと愛してるなら、鳥さんを飼っちゃいけないの。
どれだけ可愛くて愛しくても、飼っちゃいけないの。
それに、
『可愛い!』なんて理由で動物を飼うなら、そんなの、
可愛いだけのギャルと結婚してるダサダサ男と、同じになっちゃうわ。」
『ミシェル』