エピソード6 『おばあちゃん子の輪廻』
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- 2023年4月5日
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エピソード6
渡仏以降の母は、あまり母親らしいことはしてくれなかった。
一年のうちに1度も日本には戻らず、
ただ正月にだけ、写真入りのエアメールが送られてきた。
母がプロデュースに関わった、舞台の写真である。
仲間たちと、楽しそうな幸せそうな笑顔で写っている。
母は、35歳からおよそまったく老けなかった。
好きなことに囲まれながら生きると、人は老けないのだということを知った。
その教訓は、母から私への、かけがえのない贈り物であった。
そして、かけがえのない教育であった。
母の幸せそうな顔を見ていると、私も幸せな気持ちになった。
「私のせいで母の人生を台無しにしなくて良かった!」
私はいつも、そう思った。
私は、母を訪ねて何度かフランスに飛んだ。
ホテルを予約したりしなくても、母のアパルトマンに泊まることができた。
母は私の母であるので、私から滞在費を取ったりはしない。
海外旅行というのはとかくお金の掛かるものだが、
私はほとんどお金を掛けずに、何週間も滞在し、何十種類ものチーズとワインを試し、
何百本もの通りを歩いて、パリの美しい街並みを踏破することができた。
養育者がバラバラに住んでいると、
そのぶん、ホームタウンが増える。
人よりもたくさんの経験を得ることが出来るのだ。
『おばあちゃん子の輪廻』