エピソード6 『かのんのノクターン』
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- 2023年4月13日
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エピソード6
かのんの絶句は、それだけでは終わらなかった。
無邪気で無知な子供たちは、
その即興ピアニストにあらぬリクエストをしたのだ。
「ねぇねぇ、さっきのお姉さんの曲、アンタも弾いてよー!」
「それはムリだろう」
かのんは失笑した。
童謡レベルの技術では、リストは弾きこなせるはずがない。
かのんは少しホっとした。
「これで私の腕前が際立つだろう」
しかし、予想外の展開になった…
その天真爛漫な少女は、なんと、
平然と笑って、「いいよ」と承諾したのである。
そして、ためらいもせずに弾き始める。
ニコニコ笑いながら、あの美しい冒頭の旋律を弾き…
展開部に入ると、表情をガラっと変え、まるで別人のような真剣な表情で、
超絶的な速弾き部分を弾きこなしてしまったのだ!!
天真爛漫な彼女は、
リストを弾きこなすだけの技術を持っていたのだ。
持っていながらも、それを聴衆の前で誇示しようとしたりはせず、
とてもシンプルで単純明快な、子供のデタラメみたいな自作曲を、弾いたのだ。
そして聴衆もまた、
そのデタラメみたいな自作曲のほうを、喜んだ…!
かのんは、打ち砕かれる思いがした。
自分の18年間を真っ向否定されたような気持ちになった。
しかし、これが現実だった。
『かのんのノクターン』