エピソード6 『アオミ姫』
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- 2023年3月31日
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エピソード6
「お供ってあなた、
あなたも一緒に、城から脱走(だっそう)するつもり!?
家来(けらい)が脱走したら、打ち首なのよ!?」
「は、はい…。
知っていますとも。
でも、
私にとって、あの城は、
すでに、ゴウモンと同じようなモノなのです…」
「どういうこと!?」
「私は、
父が貴族(きぞく)ですから、あの城に奉公(ほうこう)に出されたのです。
父が、勝手に決めたことなんです。
私は、お城暮らしよりも、歌を唄って暮らしたいのに…」
「それであなた、
お遣いばっかり、買って出ていたワケ!?」
「まったくその通りですぅ。」
「…ふうん。
おたがい、苦労してんのねぇ。
いいわ。
あなたも、私のお供にしてあげる♪」
一行は、
なおも、森の中を歩いて行きました。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…
ねぇ、ちょっと!フラミース?
私のこと、おんぶしてくださらない?」
「えー!?
姫様?私は、姫様よりも体が小さいのですが…」
「もー!!役立たずねぇ。
あなたもう、お供にしないわ!
一人でどっかに行っちゃいなさいよ!」
「えー!?
あ、はい。かしこまりました…。
さようなら、お姫様。」
フラミースは、その場に立ち止まりました。
姫たちが見えなくなるまで待ち、距離(きょり)をおくことにしたのです。
姫とホトミは、再び歩きはじめました。
やがて、
分かれ道に出くわしました。
親切に、立て札が立っています。
…しかし、
姫は、字が読めません。
国語の勉強の時間になると、いつも、
「アタマが痛い病」になるので、字の学習が進んでいないのです。
「どうしよう…困ったわ。」
「ハハハ。
困ったなぁ、姫さん。
どうしたらエェんやろなぁ?こういう時。」
しばらく立ち往生(おうじょう)していると、
メイドのフラミースが、追いついてしまいました。
「まぁ!姫様。
どうされたのですか!?」
「い、いや?どうもしないわよ。
ただ休憩(きゅうけい)してるだけよ。
アンタ、先に行ってしまいなさいよ!」
「あれぇ?
行かせちゃってエェんかなぁ。
フラミースは、姫さんにとって、救世主(きゅうせいしゅ)やでぇ?
字、読めるさかい。」
「じゃぁ、私、
先に行かせていただきますね…」
フラミースには、ホトミの声は聞こえてないらしい…。
「あー!行ってまう!!
唯一無二(ゆいいつむに)の救世主がぁ…!!」
姫様は、アタマが混乱(こんらん)してしまいました。
でも、とにかく、
フラミースを逃(のが)してはマズいことだけは、理解できました。
「ちょ、ちょっと!
待ちなさいよ!フラミース!待ちなさい!」
「え?
なんでしょう?姫様。」
フラミースは、ふり返って首をかしげました。
「あれぇ?
そんなエラそうな言い方で、エェんかなぁ?
姫さん、助けてもらう立場やでぇ?
どっちが、エラいんかなぁ?」
「ちょっと!フラミース…ちゃん。
アオミのこと、助けなさい…って下さいよ…?」
「は?
姫様?何を言っておられるか、よく聞き取れないのですが…」
「フラミース…ちゃん。
アオミのことを、助けて…ください…。」
「おほほー!
言えるやないかー♪」
「姫様?お困りごとなのですか?
休憩中だとおっしゃっていましたが…」
「いえ、あの、その…
休憩中っていうのはウソで…
実は、あの、その…
立て札が読めなくて、道がわからなくて…」
「えー!姫様!?
毎日、この国最高の家庭教師が、城に参(まい)られておりますのに!?」
「それはそうなんだけど…
その…アオミは、アタマが痛くて…」
「頭痛持ちなのですか?
この国最高の医者と、この国最高の万能薬(ばんのうやく)が、
用意されていたはずですが…」
「あ、いや、その…」
「ホレ!姫さん!
まーだ、ウソ付き続けるんかいな?
助けてもらう相手に、ウソ付いてエェんかなぁ?うーん。」
「もー!アンタはダマってなさいよ!!」
「え!?
姫様、もうしわけございません!!
わたくしフラミース、もう、先を急ぎますね!!」
「あーーー!!
ちょっとちょっと!フラミース!
あなたに言ったんじゃナイのよ!!」
「え!?
さっきから姫様、
言っていることが支離滅裂(しりめつれつ)なのですが…」
「あー、ごめんごめん…なさい。
気が動転(どうてん)しているの。
私、字の勉強をサボってばかりいたから、
立て札の字が読めなくて、困っているの。
それで、助けてもらいたくて…
…あれ?
でも、フラミースも女性だから、
字の勉強はしていないのよね…」
「いいえ?
私、アオミ姫くらいの年ごろには、
読み書き計算、出来ましたけども…」
「えー!?
あなた、家庭教師が付いていたの!?」
「いえ?
私の父は、家庭教師なんぞ、付けてくれませんでしたわ。
『皿洗いが字を読める必要など、無いわ!』
っていうのが、口グセでしたから…」
「それじゃ、
誰に字を教わったの?」
「母が。父にナイショで、教えてくれたんです。」
「そうなの…。
あなたは、お母様が教育ママさんだったのねぇ。
かわいそうに…」
「いえ?
私が自分から、『教えて』とお願いしたのですよ?」
「え!?
あなたのお母様は、
字のお勉強のゴホウビに、どんなオモチャをくれるの?
うらやましいわ!さぞかし珍(めずら)しい舶来品(はくらいひん)なのね!?」
「いえ?
字をお勉強しても、ゴホウビなどもらえませんが…
逆に、私が、母の肩もみをする決まりなんです。」
「えー!?
あなた、ゴホウビもなくて、仕事をしなくちゃならないのに、
字のお勉強をしたの!?」
「はい。そうですが…」
「どういうことなの!?
他の大人が、ゴホウビをくれるの!?」
「いいえ、姫様。
他の誰も、ゴホウビをくれませんわ。
私は、字の勉強がしたいから、
肩もみと引きかえでも、お願いするのでございます。」
「…どうして??」
「だって、字が読み書きできたら、面白いじゃないですか♪
たくさんの物語が、読めますわ♪
物語が読めると、
知らない国の、知らない人々の生活も、知れますわ♪」
「…それって、
お人形さん遊びよりも、面白いモノなの?」
「もちろんですとも!
お人形さんは、1つで飽(あ)きてしまいますが、
物語は、100読んでも、飽きませんわ♪
まるで、自分の人生が、100個あるみたいですわ!!」
「字が読めたら、そんなに楽しいコトがあったなんて…」
『アオミ姫』