変化は、まだ続いたわ。
ついには、診療所まで失くなっちゃったの!病院よ。
かといってそれは、「天使の待ちぼうけ」に出入りする、
パパと同じような考えを持つ人が営む、病院だったの。
いったいどういうこと!?
私たちは「天使の待ちぼうけ」で、話を聞いたわ。
「ほっほっほ!たしかに、大胆すぎる策ではあったと思うとる。
それというのもな、
観光地化が激化して、町の者たちが裕福になってから、
患者の病気の質もまた、激変してしまった。
糖尿病、高血圧、肝硬変、肥満…
どれもこれも、『食べ過ぎ』を要因とするものばかりじゃ。
医者や薬で治せんものでもないが、
結局のところ、患者が生活習慣を改めんかぎり、再発を繰り返すだけじゃ。
道楽者と横着者のために休日出勤、往診するのも、バカらしゅうなってきた。
そこでワシは、考えた。
患者たちに、上手くダイエットさせる方法をな。
ワシの妻は、ダンスをやっておった。
じゃから、妻に、ダンス教室を開かせたんじゃ。
おぬしらも知っておろう?
庶民は金持ちになったら、まず真っ先にどこに行く?ダンスパーティじゃ。
そこで魅力的な異性を射止めるためには、何が必要じゃ?
『ダンスの腕前』と、『見事なプロポーション』じゃよ。」
「その前に美人でなくちゃ。
でも、この町に美人は居ないよ。カロリーナ以外は。」とパパ。私なんか美人じゃないわ。
「仮面祭の町じゃぞ?まったく問題ないさ。
案の定じゃった。
ダンス教室を開いてみると、生徒は殺到した。あっという間に20人じゃ。
いくら運動せいと言っても聞かんかった道楽者たちが、
自分から汗水流して運動しとる。ほっほっほ。上手くいった!」
「エンツォ先生も、親切心から廃業したってことなのね…!」
「ダンスは良いぞ。カロリーナもたしなんでおくと良い。」とエンツォ先生。
「私は、ダンスパーティなんか行かないわ!」
「ダンスパーティに行かないとしてもな。
ダンスの趣味は、おぬしの健康と美容を助けるじゃろうて。」
「それにしても、暮らしにくくなったな。」いつも明るいパパも、さすがに気落ちしているわ。
「なぁに、往診は続けるよ。ひっそりとな。」
「それはありがたいけど、それだけの問題じゃなくてね…」
「おぬしの場合は、なおさらじゃろな。迫害まで受けよって。」
少しの沈黙をはさんで、ポパイのマスターが口をはさんだ。
「引っ越したらどうだ?一家そろって、さ。」
「引越し!?オレは、舟の船頭しかできないよ。」
「何とかなるよ。たぶん。」
「引越しなんて、考えらんないわ!」私は口をとがらせた。
「そう意固地になるなって。
引越ししなきゃ、良い大人になれないぜ?」
「またそれ?」
一連の「良い大人になる方法」は、マスターの入れ知恵なのよ。
「私だってもう、迷信が通じる年じゃないわ。」
「迷信じゃないよ。引越しってのは、人をたくましくする。幅を広げる。
カロリーナ?キミ、
オレがなんで筋肉ムキムキか、知りたがってたな?
オレもまた、引っ越してきたんだよ。
昔は、漁師をやってたんだ。海辺の町でな。」
「そうだったの!」納得だわ。漁師って力仕事よ。
「何とかなるって言ったのは、もしや?」パパが話の軌道をもどした。
「そうさ。
オレの昔住んでいた家は、空き家のまま残ってる。
改修は必要だろうが、イチから買うよりマシだろう。
オマエ、船頭稼業でそれなりに貯金はあるだろう?」
「まぁ、多少は。」
「そこに住んで、漁に出たらいい。
なぁに、漁にもいろいろあるさ。オマエにできる仕事もあるよ。」
引越しするなんて、思ってもみなかったわ!
でもたしかに、もう息苦しくて死にそうだったところよ。
家と仕事にアテがあるなら、私たちでもどうにかなるかも。
いざとなれば、私のトランペットで…いや、まだ曲すら吹けないけど。
『マイウェイ -迷路の町のカロリーナ-』