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エピソード6 『マイウェイ -迷路の町のカロリーナ-』

変化は、まだ続いたわ。

ついには、診療所まで失くなっちゃったの!病院よ。

かといってそれは、「天使の待ちぼうけ」に出入りする、

パパと同じような考えを持つ人が営む、病院だったの。

いったいどういうこと!?

私たちは「天使の待ちぼうけ」で、話を聞いたわ。


「ほっほっほ!たしかに、大胆すぎる策ではあったと思うとる。

 それというのもな、

 観光地化が激化して、町の者たちが裕福になってから、

 患者の病気の質もまた、激変してしまった。

 糖尿病、高血圧、肝硬変、肥満…

 どれもこれも、『食べ過ぎ』を要因とするものばかりじゃ。

 医者や薬で治せんものでもないが、

 結局のところ、患者が生活習慣を改めんかぎり、再発を繰り返すだけじゃ。

 道楽者と横着者のために休日出勤、往診するのも、バカらしゅうなってきた。

 そこでワシは、考えた。

 患者たちに、上手くダイエットさせる方法をな。

 ワシの妻は、ダンスをやっておった。

 じゃから、妻に、ダンス教室を開かせたんじゃ。

 おぬしらも知っておろう?

 庶民は金持ちになったら、まず真っ先にどこに行く?ダンスパーティじゃ。

 そこで魅力的な異性を射止めるためには、何が必要じゃ?

 『ダンスの腕前』と、『見事なプロポーション』じゃよ。」

「その前に美人でなくちゃ。

 でも、この町に美人は居ないよ。カロリーナ以外は。」とパパ。私なんか美人じゃないわ。

「仮面祭の町じゃぞ?まったく問題ないさ。

 案の定じゃった。

 ダンス教室を開いてみると、生徒は殺到した。あっという間に20人じゃ。

 いくら運動せいと言っても聞かんかった道楽者たちが、

 自分から汗水流して運動しとる。ほっほっほ。上手くいった!」

「エンツォ先生も、親切心から廃業したってことなのね…!」

「ダンスは良いぞ。カロリーナもたしなんでおくと良い。」とエンツォ先生。

「私は、ダンスパーティなんか行かないわ!」

「ダンスパーティに行かないとしてもな。

 ダンスの趣味は、おぬしの健康と美容を助けるじゃろうて。」


「それにしても、暮らしにくくなったな。」いつも明るいパパも、さすがに気落ちしているわ。

「なぁに、往診は続けるよ。ひっそりとな。」

「それはありがたいけど、それだけの問題じゃなくてね…」

「おぬしの場合は、なおさらじゃろな。迫害まで受けよって。」

少しの沈黙をはさんで、ポパイのマスターが口をはさんだ。

「引っ越したらどうだ?一家そろって、さ。」

「引越し!?オレは、舟の船頭しかできないよ。」

「何とかなるよ。たぶん。」

「引越しなんて、考えらんないわ!」私は口をとがらせた。

「そう意固地になるなって。

 引越ししなきゃ、良い大人になれないぜ?」

「またそれ?」

一連の「良い大人になる方法」は、マスターの入れ知恵なのよ。

「私だってもう、迷信が通じる年じゃないわ。」

「迷信じゃないよ。引越しってのは、人をたくましくする。幅を広げる。

 カロリーナ?キミ、

 オレがなんで筋肉ムキムキか、知りたがってたな?

 オレもまた、引っ越してきたんだよ。

 昔は、漁師をやってたんだ。海辺の町でな。」

「そうだったの!」納得だわ。漁師って力仕事よ。

「何とかなるって言ったのは、もしや?」パパが話の軌道をもどした。

「そうさ。

 オレの昔住んでいた家は、空き家のまま残ってる。

 改修は必要だろうが、イチから買うよりマシだろう。

 オマエ、船頭稼業でそれなりに貯金はあるだろう?」

「まぁ、多少は。」

「そこに住んで、漁に出たらいい。

 なぁに、漁にもいろいろあるさ。オマエにできる仕事もあるよ。」


引越しするなんて、思ってもみなかったわ!

でもたしかに、もう息苦しくて死にそうだったところよ。

家と仕事にアテがあるなら、私たちでもどうにかなるかも。

いざとなれば、私のトランペットで…いや、まだ曲すら吹けないけど。



『マイウェイ -迷路の町のカロリーナ-』

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