エピソード6 『リストラ後の7回裏で…』
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- 2023年3月25日
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エピソード6
私は、
「穏やかでおっとりしている」という自分の気質が、
あまり、好きではありませんでした。
その自己嫌悪は、
バブルが弾け、社会が効率化の一途を辿るに比例して、
根強いものになっていきました。
手数を多く捌(さば)けない自分は、価値の無い人間に感じたのです。
…しかし、
人生の円熟期を迎えた今時分…
他でもなく、私のそうした気質に対して、
大きな価値と評価を与えてもらった事実によって、
「穏やかでおっとりしている」という気質も、
悪いものでは無かったのだなぁと、思えるに至りました。
社会は、
世紀末頃から、
「リストラ」という事象を、絶望的なものとして取り上げ続けていますが、
私は、リストラの憂き目に遭って、
何の不幸も、感じられないのでした。
…一体、私は、精神異常者なのでしょうか!?
リストラに遭っても、失業手当というものが、
国から支給されるでは、ありませんか?
たとえ、一人で家計を支えているとしても、
大した危機には、陥らないはずです。
職探しも、大変は大変でしょうが、
未曾有の大不況をサービス残業の午前様で乗り越えてきた
百戦錬磨の企業戦士たちにとって、
そんなにも、絶望的に苦しいものでしょうか?
大変失礼な言い方とは存じますが…
リストラ後の職探しの日々を、苦痛に感じられる方というのは、
長い就労期間を、相当、ぬくぬくと過ごして来られた気がします…。
忍耐力や交渉力、行動力などが、充分に養われて居られないのです。
…であれば、
リストラに遭わなかったとしても、
この社会を生きていくことは、苦痛の連続である気がします。
…すると、
「リストラに遭ったから憂鬱になった」のではなく、
リストラに遭う前から、人生が憂鬱で、
リストラという事象は、自分の憂鬱さを正当化してくれる、
都合の良いカムフラージュに利用しているのでは、無いでしょうか?
…繰り返し、
無礼な持論を、深くお詫びします。
また、
「仕事が無い…」と、何ヶ月も憂いていらっしゃる方も、多く見かけます。
しかし、
求人広告を見ると、仕事は日本中に溢れ返っています。
それでも尚、「仕事が無い」と嘆かれる方は、
条件を、選り好みし過ぎて居られるのでは、ないでしょうか?
もし、
「パソコンが出来ないと雇ってもらえない」と嘆くのであれば、
パソコンの勉強に、励めば良いのです。
リストラに遭っていない人間も、
長い就労人生のどこかで、大抵、
必死に、必死に、パソコンの勉強をしていますが…?
尚且つ、彼らは、
日々の業務をこなす傍ら、パソコンの勉強までしなくてはなりません。
しかし、失業中で就活をされている方であれば、
パソコンの勉強に励む余裕が、相当に、あるはずですよね?
また、
工業系など、直接的にパソコン・スキルを必要としない業種の方だったとしても、
今の時勢、パソコンを操作出来なくては、時代に取り残されます。
または、外回りの営業マンに、巧みに騙されてしまいます。
ネット上の「振り込め詐欺」に、騙されてしまいます。
…結局のところ、
「様々なスキルの獲得」に努力を注がない人間は、
リストラに遭う・遭わないには関係なく、
不幸や不便を感じることが、多くなるように感じますが…。
…持論が過ぎましたね。深くお詫びします。
しかし、私自身は、
30年ばかりの就労期間の中で、
かなりたくさんの物事に取り込んで来たゆえ、
旅行会社への再就職が適わないとしても、
それなりに、幅広い業種に、潰しが利くと感じています。
恐らく、
私と同様に、半生の中で様々な物事に取り組んで来られた方は、
リストラに遭っても、あまり困って居られないことでしょうし、
悲しんで居られないことでしょう。
また、
周囲の話を見聞きしていると、
小さな企業に勤めている者ほど、
就労先の転身に、苦痛を感じていないようです。
これは、
企業が小さければ小さいほど、
各々のスタッフは、様々な種類の業務を兼任する必要があるからです。
例えば、
大企業に就職してしまうと、会計事務なら、会計事務の業務ばかりを、
延々と、続けることになります。
しかし、
小さな企業に勤めると、「会計事務」という肩書きを名乗っていても、
会社の都合により、広報やIT、新人育成など、
様々な業務を、こなさなければならなくなるのです。
…実は、私自身、
名刺上の肩書きは「社長」でしたが、
仕事分担上の区分は、「会計事務」でした。
会計事務は、朝から晩まで仕事がある立場では無かったので、
顧客からの電話・メールに応答する営業的作業や、
簡素な社内報告用webサイトの構築、フライヤーの作成、
クレーム処理、事務的買出し、新人への業務研修、エアコン清掃、
取引先の方々への応接対応…
とにかく、様々な作業を、兼務しました。
これは、他の初期メンバーも、ほぼ同様です。
私達5人は、各々が各々のピンチヒッターを務められましたし、
完全に交代することも、可能だったことでしょう。
…これは、自慢話では、ありません。
スタッフ数が10人を切るような、小さな企業は、
どこも、似たようなものでしょう。
だから、
リストラに限らず、就労先の転身が必要になったとき、
大して不安にもならず、大して苦痛にもなりません。
社会は、
「大手有名企業に取り敢えず入ってしまえば、
そのネームバリューで、一生困らない」と、謳います。
学生たちは、その言葉を信じて、
必死で学歴獲得に奔走します。
しかし、
企業側の実態としては、
「履歴書の左側」など、ほとんど意味を持ちません。
中学を卒業していれば、あとは気にしないでしょう。
それよりも、
どんな業務をこなしてきたか、どんなスキルを持っているか、
そうしたものこそを、重要視します。
…私は、
若い方々に申し上げたいのですが…
夢見ている職種・企業があるのならば、
「無関係な勉強を重ねて学歴を得ること」に励むよりも、
アルバイトでもお手伝いでも何でも良いので、
その職種・企業に潜り込んでしまうことです。
そこで1年も実地体験を積んだならば、
国立大卒の肩書きを持つ者よりも、資格を持つ者よりも、
信頼を得られるし、戦力として計算してもらえますよ。
ごく一部の賢い若者は、このことに気付き、
教師やメディアの言うことには踊らされず、
学歴の取得より、直接、
目当ての職種・企業に潜り込んでいますよ。
また、
そのような気概のある若者は、
得てして、非常に面白い働き手となり、人望ある上司になります。
『リストラ後の7回裏で…』