エピソード6
バンドという音楽形態は、
もう、廃れていくだろうと思う。
色んな意味で、「時代遅れ」なんだ。
あれは、「バブルの落し物」ってヤツなんだよ。
シロウトは、気付いていないだろうけど、
市場を賑わせているポップスのドラムやベースは、
生の楽器じゃなくて、パソコンで打ち込んだ音ばっかりだ。
近年は、「サンプリング」なんていう技術が一般化してきて、
リアルな生音とほとんど大差ナイから、
ベーシストやドラマーの需要は、激減している。
ライブハウスにだって、
ベーシストやドラマーをリストラして、
ノートパソコンを持ち込んで、
打ち込み音源を流しながら唄うヤツらが、ゴロゴロ居る。
そういうサウンド形態が、悪いとは、言わねぇ。
良いユニットは良いし、ダメなユニットは、ダメだ。
打ち込みか生かってのは、実際、あんまり関係無ぇ。
とにかく、
ベーシストやドラマーの需要が減り続けていて、
バンド形態のグループが減り続けているのは、事実だよ。
ゆずが登場した辺りが、
バンドの命日だった気がする。
それ以降にバンドを組んだヤツらは、
そのうちの0.1%すら、日の目を見ていないだろうよ。
俺は、生音が好きだ。
それに、生音の良さも、熟知しているつもりだ。
けれども、
商業とか流行とか、そういうことを第一に考えるんでれば、
バンドはもう、死んでいるよ。
色々と、理由はあるさ。
例えば、
音楽番組が、アーティストのブッキングを検討する際、
経費ってモンを、必ず、考慮するだろう?
一曲披露するために、
4ピース・バンド(4人のバンド)だったら、
4人分のギャラやら弁当やら衣装やら、用意する必要がある。
けれども、
ELTみたいな、打ち込みを併用した2人組みユニットや、
森山直太郎みたいなソロであれば、
それぞれ、2人分、1人分のギャラや諸経費で、済んじまう。
すると、
不況になればなるほど、
少人数ユニットのほうが、「業界ウケ」が、良くなるんだよ。
あと2年後に、
バブル時代の羽振りが再来するんであれば、
バンド・マンたちにも未来はあるけど、
どうにも、そうは思えねぇ。
レコーディングするにしても、そうさ。
特に、ドラムを録音するには、
ものすごい数の機材が必要になる。
知ってるかい?
ドラムを一曲録音するだけで、マイクが10本近く、居るんだよ!
すると、
相当規模のデカいスタジオじゃないと、
ドラムの録音を、受け付けられない。
また、
レコーディングの料金ってのは、時間制だから、
バンドの人数が多いほど、
1曲の録音に掛かるコストも、増大する。
だから、
自分で作詞・作曲が出来ちまうようなギター・ボーカルは、
金銭的にお荷物なドラマーを、自分のグループには、抱えたがらない。
生ドラムの音の良さを解ってるヤツも居るけど、
「今は妥協して、有名になって資金が出来たら、生ドラムを付けよう」
なんていう、妥当なことを、考えるよ。
俺も、そうするだろうと思う。
ドラムに比べれば、
ベースはまだマシなんだが、
それにしたって、
打ち込みで済ませてしまったほうが、ずっと効率が良いことには、違い無ぇ。
ベースなんて特に、
ナマと打ち込みで、音色の区別が付かないことが多いから、
どうしても、リストラの対象にされやすい。
『虚像のバンドマン』