エピソード7 『かのんのノクターン』
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- 2023年4月13日
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エピソード7
かのんが呆然としていると、
不意に後ろから、優しく肩を叩かれた。
振り返ってみると、そこにいたのは、例の教師であった。
かのんにこの仕事をあっせんした、音大のジャズ理論の教師である。
「申し訳なかったね。辛い思いをさせただろう。」
教師は、遅刻してきた新入社員のような、気まずい表情で言った。
かのんは、たまらず泣き出した。
悲しみがこみ上げてきた。
教師は、かのんの肩を優しくさすった。
「申し訳ない。怒りがこみ上げてきたろう?」
「いえ。怒ってはいません。ただ悲しくて…」
「怒りは感じていないか。
ならば、なおさらだな。」
「え?」かのんは教師の顔を見上げた。
「小関くん。君は、クラシックから反れたほうが良い。
私は、そう思うんだ。」
「どうしてですか?そんなにへたくそですか?」
「違う。違うよ。
技術力云々の話ではない。
それよりも、性格的な問題だ。
君はあまりにも実直すぎるし、真面目すぎる。」
「それはいけないことなんですか?
プロのピアニストになるためには、真面目に打ち込まなくちゃ。
努力しなくちゃ、報われるはずがないです。」
「残念だが、そうじゃないんだよ。
この国では、努力がそのまま報われるとは限らないんだ。」
「え!?」
『かのんのノクターン』