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エピソード7 『沈黙のレジスタンス』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月7日
  • 読了時間: 2分

そして2年ほどの月日が流れた。

僕は12歳になり、デニーは今ごろ、14歳になっているはずだった。

デニーに残された期間は、あと1年間。


珍しく監督が、僕に声をかけてきた。それも、神妙な面持ちで。

「おぉ、エニス。大変なことになった!

 ワシがうっかり、仕事仲間に口をすべらせたからじゃ。

 地下都市の発掘をしたがっている、地元少年が居るとな。」

「それが、どうかしたんですか?」

「ラーマ法王が、内密で発掘調査に乗り出そうとしている。

 国に手続きせずに、内密でな。

 観光地開発を名目にするつもりらしいが、それは違う。おそらく。」

「何なんですか?何かほかに、目的があるんですか?」

「隠ぺいじゃよ。」

「隠ぺい!?」

「文献の伝承によれば、

 地下都市に隠れ住んだのは、

 ラーマ帝国からの迫害を受けた、原初キリスト教徒の面々。

 ラーマ帝国もキリスト教じゃが、『原初キリスト教』とラーマ教義は、似て非なるもの。

 ラーマ法王によるキリスト教は、カネ集めじゃ。

 それに反対する『原初キリスト教』は、弾圧され、迫害されてきた。

 地下都市が発見されると、そのラーマ帝国による非道な迫害の歴史が、

 世界中に明るみになる恐れがある。

 じゃから、

 ラーマ法王自らが発掘を指揮し、不都合な証拠をあらかた隠滅する気なのじゃろう。」

「どうすればいいんですか!?」

「ラーマ法王の手先ではない者たちが、先に掘り起こすしかあるまい。

 そして先に、真実を報道する!」

「お願いします!監督!」

「そうもいかんのじゃよ。

 ワシは遺跡発掘のエキスパートではあるが、

 あくまで、国に雇われて発掘指揮をとっているにすぎん。

 ワシの独断で新たな遺跡発掘は行えんし、その資金も出せんよ。

 発掘労働者たちに、莫大な賃金を払わねばならんからな。

 国もまた、どこにあるかもわからん遺跡の発掘に、カネを払うことはせんじゃろうて。」

僕は思った。

「僕が、デニーが、先に掘り起こすしかない!!」



『沈黙のレジスタンス』

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