車掌の巡回が終われば、あとはもう静かなモンだった。
普通は、向かいの席の乗客と世間話に花が咲いたりするモンだけど、
そういうのもぜんぜんナイ。
英語の話せる人が居ないし、社交的な人も居ないんだろう。
ホントに三途の川に行くのかなって、思っちゃうよ。
真夜中。
僕は、寒さから尿意をもよおした。
バックパックが座席の下にしっかり納まっているのを確認して、
すばやくトイレへと向かった。
トイレも絶好調に汚く貧しくすきま風吹きまくりだけど、
今はトイレの話なんかしてる場合じゃないんだな。
僕は、盗難を警戒して、そそくさとシートに戻った。
再びバックパックを眺めてみるけど、特に荒らされた形跡もなかったから、
安心して、再び眠った。
朝起きて、ビハーリーの駅について、
バックパックを持って、ビックリさ!
なんか、軽くない!?
とりあえずホームに出て、人波がしずまるのを待って、
バックパックを開けてみる。
ガーン!!
ノートパソコン、盗まれてる…!!
いちおう警察には行ったけど、
盗まれた物が返ってくる可能性は、タイムマシンが発明されるより低いし、
出てくるまでこの町で待ってるわけにもいかないからね。泣き寝入りすることにしたよ。
パソコン自体も惜しいけど、
パソコンに保存してた旅写真のデータが、それ以上に惜しかったさ。
プライスレスだからね。同じ写真なんて、二度と撮れやしないし。
普通、バックパッカーたちは、
荷物にせよデータにせよ、盗難対策をもっとシッカリやってるよ。
僕はこれまでの放浪で、あんまり盗難の危険性ってのを感じたことがなかったから、
あんまり厳重にはしてなかったんだ。
キミがインドに行くなら、もっとみっちり対策しといたほうがイイよ。
トイレ行くときは貴重品を抱えて持っていったほうがイイし、
南京錠とかでバックパックを施錠しといたほうがイイし、
3等車には、乗らないほうがイイかもしんないな。
『「おとぎの国」の歩き方』