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エピソード8 『かのんのノクターン』

エピソード8

教師は続けた。

「長い助走の果てのハッピーエンドは、

 ヨーロッパ諸国では、概ね、その通りであると言えるよ。

 3才からクラシック業界を目指して走り続けた子は、

 概ね、クラシック業界にたどり着き、それなりの名声と富を得る。

 『ストイックに音楽に向き合うか否か』それだけが明暗を分ける。

 音楽の神は、努力した者に微笑みかける。欧州ではね。

 しかし、現代日本という国は、そうとも限らないのだ。

 日本は世界有数に豊かな国で、

 ピアノやフルートを買い与えてもらえる子の数は、星の数をも超えるほどだよ。

 学校や指導者の数も充実していて、プロレベルに達するのは、そう難しくはない。

 

しかし、技術を得ても大きな難関が立ちはだかる。


 日本という国は、クラシック音楽にあまり関心が無いんだよ。残念なことに。

 クラシックにお金を払おうとする人間の数が、ヨーロッパよりも極端に少ない。

 クラシックホールに、市は税金を出さない。

 クラシックコンサートにもオペラにも、日本人は赴かない。

 日本人が自主的に買うクラシックのCDなど、モーツァルトのベスト盤くらいのものだよ。

 ラックの残りの99枚は、ロックとアイドルポップスが占める。そうだろう?」

「………。」かのんは黙って聞いている。


「すると、逆転現象が起こるんだ。

 クラシック奏者というのは、

 アイドル歌手よりも数千倍も練習しているし、

 高い技術や知識を持ち合わせているというのに、

 アイドルのほうが、お金持ちになりやすいんだよ。

 日本では、譜面すら読めない16歳のアイドルが、年収1千万も得る。

 でもクラシック奏者は、そういうわけにはいかないのだ。

 ヨーロッパ以上の狭き門をくぐって、プロのクラシック奏者を名乗れるようになったとしても、

 平日は事務仕事で生活費を稼いでいたりする。それが現状なんだ。

 成功者には、なれないんだよ。報われないんだ。

 かといって、君みたいな子は、音楽以外には何もやってきていない。

 『ほかの食い扶持(ぶち)を探せ』と言われたって、

 24、5歳から慌ててパソコンを学ぼうが、周りには追いつけないよ。

 すると、人生はボロボロになってしまう。


 あくまで趣味として、音楽を続けるか?

 それも悪くない。

 しかし、今のでわかっただろう?

 日本人大衆というのは、クラシックの素晴らしさを理解できないのだよ。

 誰も君の演奏の価値がわからず、喜びもしないし感動もしない。


 いいかい?

 クラシックという分野は、注ぐエネルギーに対して、見返りがあまりにも小さい。

 それを理解したうえでクラシックに打ち込んだほうが良いし、

 それを理解したうえで人生設計を立てたほうが良い。」


『かのんのノクターン』

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