エピソード8 『マイウェイ -迷路の町のカロリーナ-』
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- 2023年3月5日
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マスターからゆずり受けた家は、近所の子供が秘密基地造っていたわ。
いいのよ。マスターが許可したらしいわ。あの人バカなのよ。それか天才だわ。
どっちなの?きっと、どっちでもあるのよ。
カフェテリアのマスターをやる人っていうのは、バカであり天才なの。
でもさすがに、秘密基地はおしまい。私たちが住むんだもの。
パパは、改修に取り掛かったわ。
町の工務店も呼んだけど、自分も手伝うんだって。
あの人、日曜大工が好きなのよ。渡し舟だって自分で造ったんだもん。覚えてる?
パパ、子供たちがこしらえていったブランコとか、そのままにしたわ。
ガレージくらい、ぐちゃぐちゃでもいいのよ。ガレージくらいはね。
ガレージにも滑車ロープがあったわ。
きっと、屋上で誰かが口笛吹いたら、子分がバスケット差し出してたのよ。
結局、同じ家には同じような人間が住むの。そういうもんなのよ。
そう。屋上にはなぜか、丸い屋根があったわ。半球っていうの?そういうやつ。
半球は、どこの家にもあるのよ。セントニールではね。
パパはそれを見て、「これは白じゃないな」って言ったわ。
それで、青色にぬり替えちゃった。とてもキレイな青よ。夏の空みたいに鮮やかな。
色を変えたのには、もう1つ理由があるらしいわ。
お出かけしたときに、まっすぐ帰ってこれるようにするためよ。
言ったでしょ?この町も迷路なの。
最初から住んでたなら迷路でも問題ないけど、
引っ越してきたなら、文字通り、迷路なのよ。道に迷っちゃう。
パパのおかげで、買い物行っても学校行っても、迷わないで済んだわ。
パパ、お仕事どうするつもり?
もちろん最初は、漁に挑戦したわ。アルバイトとして、色んな船に乗った。
でもいまいち、パパにはハマらなかったみたい。
パパあんまり、筋肉ムキムキじゃないしね。
パパ、焦らなかったわ。「貯金があるうちは、焦らずいこう」ってね。
それでパパ、日曜大工に逆戻り。
何やるのかと思ったら、また船造り始めたわ。
またタクシーやるつもりなの?
それはムリよ。海の場合、どれだけこいでも、家は無いもの。
真っ白い船、造ったわ。家と同じでキレイな白。
そして、青いマストを付けたの。ウチの丸屋根と同じ、鮮やかな青。
それを海に運んでいって、家族で遊んだわ。それだけ。
パパ、家族のレジャーために、船造ったらしいわ。あの人バカなのよ。それか天才だわ。
どっちなの?きっと、どっちでもあるのよ。
悪くないわ。楽しいのよ、クルージングって。
おかげで私も、ルチアーノでさえも、操縦を覚えたし。
それに、思いがけないことが起きたのよ。
「その船、かっこいいじゃないか!どこのメーカーだい?」
って、色んな人に声かけられたわ。
パパは答える。「僕が造ったんですよ。」ってね。
そしたらみんな、あきらめるの。「ふうん。日曜大工か。」ってね。
でも、あきらめない人もいるのよ。中にはね。
そればかりか、なぜか造り主を突き止められるの。
我が家まで来て、言うのよ。「あのカッコイイ船、お宅のだろう?造ってくれ。」ってね。
「何でウチだってわかったの?」って尋ねると。
「お宅の家とあの船、同じカラーリングじゃないか。」って。そういえばそうだわ。
パパは最初、ジョウダンだろうと思ってたんだけど、本気だったの。
100万リラも積む人が、現れたわ。
「やってみるか。」パパは、仕事として船造りをやってみることにしたの。
『マイウェイ -迷路の町のカロリーナ-』