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エピソード8 『大家族』

エピソード8

彼が信頼に足る人物だと解ると、

途端に、虚勢じみた緊張感が溶けていった。

マユは、「育児放棄ではないか」と疑われ、「違う」と胸を張って即答したが、

内心、動揺を感じる自分も居た。

彼女は、その動揺を正直に打ち明けてみた。

「あの…

 ひょっとして私、やはり育児放棄なのでしょうか?

 子供を親から引き離すことは、罪深いことなのでしょうか?」

「いや、そうは思いませんよ。

 離れて暮らすというプロセスは、

 親にとっても子にとっても、非常に有意義なものだと思います。

 親離れ子離れというのもありますし、それ以外にもたくさんのメリットがあるでしょう。」

「でも、私の場合、育児放棄なのでは…?」

「いえ、そうは思いません。

 マユさんは、肉体的にも精神的にも、しっかりミユちゃんと向き合ってきたでしょう。

 養育も教育も、ちゃんとやってきてますよね。

 ミユちゃんの中に、『ママに愛されていない』という虚無感は無いように見えます。

 そして最も手のかかる乳幼児期を越えていますから、

 離れても良いと思いますよ。」

「良かった…」

マユは、こぼれる涙をそっとぬぐった。



管理人は、思いついたように話を続けた。

「人がなぜ子供を授かるか、ご存知ですか?」

「なぜでしょう?色んな答えがありそうですが…」

「そうですね。色んな答えがあると思いますが…

 人が子供を授かるのは、

 それまでの人生でないがしろにしてきたことを、追試するためなんです。」

「追試?どういうことですか?」

「子供を産むと、

 子供の経験の大半を、横で一緒に経験するでしょう?

 たとえば、

 『すずめのおやど』の絵本を読んで聞かせることで、

 正直であることの尊さを、親も一緒に学びなおせるんですよ。

 たとえば、

 砂場で一緒に泥んこになることで、

 自然愛や無邪気さの重要性を、学びなおせるんです。

 たとえば、

 宿題の丸付けをしてやることで、

 一般教養を学びなおすことにもなりますよね。

 そんなふうに、

 人として学ぶべきことで、ないがしろにしてきてしまったことを追試するために、

 人は、子供を授かるのです。

 親が未熟であればあるほど、未熟な子を授かり、

 そして人一倍、粗相(そそう)の尻拭いに忙殺されるのです。

 怠惰な人間であるほど、若くして望まない妊娠をしてしまう傾向にあるでしょ?

 そしてそういう親の子は、なぜかとても手がかかる。

 逆に、何も手を抜かず、優秀になり無邪気なままでもあるなら、

 人は、子供を授からないんですよ。妊娠しないんです。」



「………。」

マユは、その定理が真実かどうか、自分なりに考察した。

自分の人生と照らし合わせながら、考えてみた。

「…すると、

 …いや、何でもありません。」

マユは自分の思いついた仮説を口にすることが出来なかった。驕(おご)りだと感じるからだ。

「そうですよ。その通りです。

 マユさんは、たった7年間の育児体験の中で、

 必要な追試や気付きを、見事にクリアできたのでしょう。

 だから、育児という重荷が、肩から外れたんですよ。」


『大家族』

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