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エピソード8 『真理の森へ』

エピソード8

トゥーリは、私を車に乗せると、すぐに走りだしました。

彼は、車を運転しながら、私に色々と質問をしてきました。

そして同じくらい、自分のことを話しました。

彼の名はトゥーリ。31歳だそうです。


31歳というと、日本の大学ではすでに卒業してずいぶん経っていそうな年齢ですが、

フィンランドではそうでもないようです。

22~3歳で入学する人も多く、そこから5年も10年も在籍したりします。

フィンランドの大学は、学費が無料なのです。そして、4年制といった区切りもありません。

だから、学ぶ意欲の強い人は、

何年でも何十年でも在籍し、様々な科目を受講して、勉強しまくるのです。

日本の場合、「大卒」という肩書きだけを目当てになんとく入学する人が多いですが、

フィンランドの場合、本当に学ぶ意欲のある人しか、大学には来ないのです!

そして、学ぶ意欲があるならば誰でも勉強できる受け皿が、確立しています!

ただし、無償で入学できるぶん、

入学や卒業の試験(基準)は、とても厳しいのだそうです。


「…そういう仕組みのほうが、大学のデリカシーが保てる気がする…」

助手席の私は、借りてきた猫みたいに澄ましながら、そうつぶやきました。

日本の大学なんて、もはや、巨大な合コン会場みたいなものです。

「そうだよ。

 日本の大学は、もはや教育機関じゃないよね!ハハっ!」

「教育機関じゃない?どういうこと?」

「商売優先ってことだよ。

 大学のお偉いさんたちは、生徒の教育や学力なんて、どうでも良いのさ。

 とにかく、生徒がたくさん欲しいんだよ。受講料をガッポリ納めてほしいんだ。

 だからカンタンに入学させちゃうし、過去問もカンニングもとがめないし、

 ウィキペディアをコピーしただけの卒論でも、卒業させちゃう。ハハっ!

 まずは、私大なんてのは廃止して、国立だけにすれば良いんじゃないかな?」

「…!!

 フィンランドのほうが、進んでるんですね!」

「でも、いいことばかりじゃないよ?

 『充実はしている』けれど、『甘く』はないね。

 フィンランドの場合、義務教育の小学校中学校にさえ、留年があるよ。

 7歳の時点で知能や協調性があんまりにも欠けていたら、

 小学校の入学は1年先送りになるからね。

 以降も、あんまりにも学力が身についてなければ、進級はできない。

 高校入学の際だって、目当ての学校に入れるほどの学力が無いなら、

 浪人することになるよ。

 すると、ヘタすりゃ2歳も年下の子たちとクラスメイトであり続けることになるよ。

 日本人はこういうの、耐えられないんじゃない?」

「留年…!!」

「そうさ。学力がついてないんだから、進学はさせない。容赦ないよ。甘くない。

 でもだからこそ、フィンランドに落ちこぼれはいないんだ。

 『落ちこぼれを出さないこと』が、フィンランドの教育理念さ。

 100点なんか取れなくていいんだよ。落ちこぼれなきゃいい。

 そうするだけで、学力は世界でトップになった。幸福度でもトップになった。

 日本は、

 落ちこぼれのことは放っておいて、100点エリートを養成しようとするだろ?

 だから100点取るやつはノイローゼになるし、落ちこぼれるやつは墓場行きだ。

 みんな70点で良しとすれば、みんな苦しまなくて済むんじゃないか?ハハっ!」


「っていうかトゥーリ、どうしてそんなに日本に詳しいの!?」

「あれ?メールに書かなかったっけ?

 俺、日本に行ったことがあるんだよ。1年くらい、キョートで暮らしていたよ♪」

「あ、ゴメンナサイ…」

私は、トゥーリからの自己紹介など、ほとんど目を通していなかったらしい。

「…それで、日本を色々見聞きしたんですか?」

「そうだよ。

 キョートのゲストハウスに寝泊りしたから、毎日色んな日本人と会話したよ。

 話すのが好きなんだ。それだけで勉強になる。

 昼間はあちこち、アルバイトしにくり出した。

 おばんざいの給仕もしたし、大学で研究の手伝いバイトしたこともあるよ。

 日本語、しゃべるのはそんなに上達しなかったけど、

 ヒアリングならけっこう自信あるからね。日本語でどんどん話してくれて、かまわないよ♪」

それはとても頼もしいことだったけれど、

私はなるべく、英語で会話するよう努めました。英語も勉強しないとだから。

 

『真理の森へ』

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