エピソード8 キャロルの誕生日
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- 2023年3月9日
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エピソード8 キャロルの誕生日
ミシェルはアンジェリカに道案内してもらい、バス通りまで出てこれた。
お金を持っていなかったミシェルは、バスの運転手に、
「交番まで乗せてください」と告げた。
迷子を察した運転手の計らいで、ミシェルは無事、帰宅することができた。
家族はもちろん、イスがひっくり返るほどおどろいた。
「なんだミシェル、お前、魔女にでもさらわれたのかと思ったぞ!」サイラスが言うと、
「そうよ♪ママと同じくらいの年の人だったわ。
でも魔女さんの名前はヒミツなの。それが約束なのよ。」
とミシェルはほほえんだ。
キャロルの誕生日が近づいてきた。
ミシェルたちは、家族で誕生日を祝うのが習慣であったが、
その年のキャロルの誕生日は、
サイラスは会社の出張で、ロイスと一緒に出掛けなければならなかった。
ミシェルは、さみしがるキャロルのために、一策講じることにした。
「ねぇナンシー、協力してほしいの!」
「なぁに?」
学校から秘密基地へと向かいながら、二人は話した。
「来週のキャロルのお誕生日、
一緒にお祝いしてほしいのよ。パパもママもいないから。」
「いいけど、私お金持ってないわよ?」
「プレゼントはいらないわ。あの子、何でも持ってるから。」
「それじゃどうやって祝うの?」
「ピクニックでもしましょうよ。市民公園でいいわ。
私プディングを作ってくるから、
ナンシー、サンドイッチを作ってきてよ。得意でしょ?」
「いいけど…」
「あ、オリーブは入れないでね!私あれ、嫌いだから!」
誕生日の当日、
予定どおり、両親は朝から出かけることとなった。
ミシェルは、ふてくされるキャロルを抱きしめなだめながら、両親を見送った。
ピンポーン!
息つく間もなく、インターホンが鳴った。
「あら?パパったら、また忘れ物かしら?
キャロル、カギを開けてあげて。」
ふくれっつらでカギを開けたキャロルの前に現れたのは、
両親ではなく、ナンシーであった。
「キャロル!お誕生日おめでとう♪」
「わぁ!ナンシー!!」
家族以外の人間に祝ってもらうのが初めてであったキャロルは、
両親へのうらみなどどこ吹く風に消し飛んで、笑顔を取りもどした。
「ピクニックにいきましょう♪
ほら、汚れてもいい服に着替えて!ロッドもよ?」
着替えをすませたキャロルたちは、
ロケットみたいに勢いよく、家を飛び出した。
「あらミシェル?あなたスカートはいてきたの!?」
「そうよ。今日は思いっきり走り回ると思ったから。」
「へ??普通、走る日はスカートははかないでしょ?」
「うふふ。それは大人の考えよ!
スカートのすそがどうしてヒラヒラしてるか、知らないの?
走ったときにきれいになびくからよ♪」
一行は川を越え、市民公園へと向かった。
よく晴れた休日で、憩(いこ)う市民で朝からにぎやかであった。
秘密基地のウィリアムスたちにあいさつをして、チョコとアメ玉をもらい、
シロツメクサのしげる広場にレジャーシートを広げた。
「お姉ちゃん、わたし、お腹すいたー。」キャロルはミシェルの服を引っ張る。
「え、もう!?」ナンシーは目を真ん丸くしておどろいた。
「あははは。そういえば私たち、まだ朝ごはん食べてなかったわ。」
「もー!頼むわよぉ。
私なんて朝5時に起きて、サンドイッチ作ったのよぉ!」
「ナンシーのサンドイッチぃ!」それはキャロルも好物なのだ。
「はい、どうぞ。お誕生日おめでとさん。」
ナンシーはバスケットをまさぐり、
サンドイッチの入った弁当箱を、両手でキャロルに差し出した。
しかし…
「きゃはははは!何これぇ!!」
フタを開けたキャロルは、腹をかかえて笑いだす。
「え?そんなおかしなサンドイッチ、作ってないわよ!?」
ナンシーが弁当箱をのぞきこむと、
そこには、ぐじゃぐじゃに散らばったサンドイッチ。
弁当箱を取り上げて、してやったりにミシェルは言った。
「きゃはははははは!
キャロル?これはね、シェフの腕が悪いんじゃないのよ?
バスケット振り回しちゃったから、台風みたいになっちゃったの!
きゃははははは!」
「もぉー!だからいつも以上に全力で走ったりしたのねー!?」
「きゃははははは!!」キャロルは涙目になって笑っている。
「いいじゃない?
パパやママや大人たちじゃ、ぜったいこんなプレゼントできないもの♪
ナンシーあなた、中等部に入ったって大人になっちゃダメだからね?」
「ふぅ。あんたには勝てないわ。」
一行は、サンドイッチとプディングをたいらげると、のんびりと遊んだ。
歌い、
踊り、
走り、
笑い、
シロツメクサをあんだ。
太陽が真上に差しかかる頃、キャロルが言った。
「お姉ちゃん。わたし、またお腹へったぁ。」
「えー!あ、そういえば、
サンドイッチはお昼ご飯のつもりだったのに、朝っぱらに食べちゃったんだわ!
どうしよう?
ウィリアムスさんにもらったアメ、なめる?」
「じゃじゃーん!
こんなこともあろうかと…」
ナンシーは得意満面に、バスケットから包みを取り出す。
ふっくらとしたクッキーが、バターの香りをただよわせている。
「スコーンだわ!
ナンシー、あなたって最高♪」
スコーンは、ミシェルの大好物であった。
「いっただっきまぁーす!」
キャロルよりも先に、ミシェルはスコーンにかぶりついた。
しかし…
「うぇぇぇ!!なにこれぇ!!」
喜びも最高潮(さいこうちょう)というところなのに、
なぜかミシェルは顔をにがませた。スコーンらしからぬ味がする。
「ひょっとして…コレ…!?」
「そうよ!オリーブの実よ!
きゃははははははは!!」
「きゃはははははははは!!
やっぱりナンシー姉さんにはかなわないわっ!!」
「きゃはははははははは!!」
無数のシロツメクサたちも、風に吹かれながら笑っていた。
傑作(けっさく)のシナリオに感動し、本当に、笑っていた。
『ミシェル』