エピソード9 『イエスの子らよ』
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- 2023年3月3日
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10時を過ぎたころかしら。
エルサが、大きく伸びをして言ったわ。
「ふわーあ。アタシ、お裁縫あきちゃった。
ねぇ、気分転換しに行かない?」
「そういうのって、アリなの? 背の高いシスターに怒られるわよ?」
「大丈夫なのよ。とにかく何か、お仕事してればいいの。
お洗濯物干すの、手伝ってきましょう?ちょっと体動かしたいわ。」
「いいけど。」
私はエルサについていったわ。自分じゃ何もわかんないもの。
途中、あの教会を通ったの。一番最初にお祈りしたところ。
あの大きな正面扉が少し開いていて、そこだけまぶしい。
何で開いてるのか不思議に思って、手をかざしてよく見たら、
女の人と男の人が、扉のとこで立ち話してるのが見えた。
「あれ?シスター・サラじゃない!」エルサが言った。
「え?」
もう一度よく見てみると、たしかにさっきのチョコレートヘアの人だわ!
「は!」
エルサの声に気づいて、サラは走り去っていっちゃった。
私たちは、何も見なかったフリして、中庭へと歩いた。
「あいびきでもしてたのかしら?」私はヒソヒソ声で言った。
「修道院では、恋愛って禁止されてるのよ?」
「やっぱりサラって、問題児なの?」
「きっとあの修道士のほうがたぶらかしたんだわ。」
「いいなぁ。秘密の恋ってステキ。」私、恋ってしてみたいの。
「ひゃー!ヘドが出るわ!」
「エルサ、恋愛キライなの?」
「言ったじゃない?アタシ、男ってキライなのよ。
最初は優しくたって、2年目には暴力ふるうでしょ?」
「暴力しない男の人も、いるわ。」
「そうよ。でもそんなのって、100人に1人か2人よ。
暴力ふるわなくたって、ウソをつくわ。たくさんたくさん。
お金持ってるけど、ずる賢いでしょ。
男っていうのは、悪魔なの。悪魔と遊びたくはないわ。」
「男って悪魔なの?ウソでしょ?」
「よく知らないけど、
地獄から生まれてきたなら、悪魔なんじゃない?鬼っていうのかしら?
男っていうのはたいてい、地獄から生まれてきているのよ。」
「そうなの?みんな??」
「そうじゃない男もいるわ。100人に1人か2人くらいはね。
でも、悪魔じゃない男は、修道士になるか田舎の庭園の庭師になるの。
つまり、町で暮らしてたんじゃ、出会う男はみーんな悪魔なのよ。
だからアタシ、男と遊びたいと思わないし、お付き合いもしないわ。
ハズレしかないクジ引きして、楽しいわけないじゃない?」
「修道士か庭師?たったそれだけなの??」
「それだけってこともないわ。でも似たようなもんよ。」
「私、見分けが付くかしら?」
「そう難しくはないわよ。ワインにさえ気をつければ、ね。
とにかく、普通とは違う生き方をしてるのよ。お金儲けに夢中になったりはしてないの。
そういうのが当たりクジよ。1%しかいないんだから、出会うのは難しいわ。」
「ふうん。」
たしかに、エルサの言うとおりだわ。
私のほうがお姉さんだけど、エルサのほうが先輩よ。そういう感じ。
『イエスの子らよ』