レノンさんは、身を乗り出して、小声になった。
「古藤さんな?
これから、土日に、
図書館に『お手伝い』をしに来ては、くれんか?」
「おてつだい!?」
「そうじゃ?『お手伝い』じゃ!
『司書』ではないぞ?『司書補』でもない。
『清掃スタッフ』ですら、ない…。
完全なボランティアじゃから、お給料も出ん。
まぁ、お茶菓子くらいはあり付けるかもしれんし、
本は読みたい放題じゃが、どうかな?」
「やる!やる!やります!
やらせてほしいです!
そっかぁ、納得!
1年もボランティアをやらせてもらえたら、
私の司書熱も、冷めるかもしれないですよね♪」
「はーはっはっはっは!!
何を言うとるんじゃ!?
逆じゃよ♪
一年では足りんかもしれんが…
ボランティア・スタッフの果てには、
それなりにお給料をもらいながら、
司書同然の仕事が、出来るようになるハズじゃ♪」
「えー!?
どういうことー!?」
「これはな?
司書の業界に限らんことじゃが…
どうしても働きたい業界があるんじゃったら、
ボランティアでも何でも、自腹を切る覚悟さえも持って、
その業界にもぐり込んでしまうことじゃよ♪
そこで、
便所掃除から、お茶汲み・コピーから、
何から何まで、業務の手伝いをするんじゃ。
するとな?
1年もすると、
社員同然の業務を、任されるようになっとる(笑)
そのような人材は、その業界としては、宝物じゃよ!
東大の新卒者よりも、エリート銀行員からの転職者よりも、
ずーーーーーーーーーーーーーっと信頼出来るし、戦力になる!
すると、
定年の頃のワシと、同じようなことが起こる!
つまり、
行政関係者にイチャモンを付けられんようなカタチで、
どうにかソイツを雇うような『抜け道』を、画策するじゃろうなぁ♪」
「私も、図書館で働けるってことー!?」
「そういうことじゃ♪
…ただし、
給料は、他の職員の半分かもしれんぞ?
ワシも今、8時間の週5日で、12万ほどの薄給で働いとる。
…まぁ、古藤さんはシルバー人材ではないから、
それよりは良い給料が出るじゃろうが、
一人暮らしする余裕は、あるかどうか…
それでも、
ボランティアで何百時間も働くことが、出来るかな?」
「うー。
一人暮らしは、人生のどこかで経験しておきたかったけど…
でも、お給料には、こだわりはないんです!」
「良い返事じゃな♪
それと、もう一点ある。
おぬしが1年以上もボランティアを続けたとしても、
その努力が100%報われる保証は、ない。
どこにも、ないんじゃ。
たとえワシが、ここの最高責任者であったとしても、
100%の保証をしてやることは、出来ん。
もしかしたら、
古藤さんよりもその役立たずの東大の新卒者のほうを、
採用せねばならん事情が、出てくるやも、わからん…
『何の保証もない闇の中』に、
飛び込む勇気と根性は、おありかな?
…そのような冒険をする少女の文学も、たくさんあるがのう…?」
「うー。どうしよう…」
私は、ある程度の困難に飛び込んでいく覚悟は、
持っているつもりだった。
けれど、
いざ目の前で、具体的に岐路に立たされると、
混乱し、動揺している自分が、居た…
「あの、レノンさん。
私、数日くらい、考えさせてもらっても良いですか?」
「ほーほっほっほ!
もちろんじゃとも♪ゆっくり、考えなされ?」
『ヒミツの図書館お姉さん♪』