エピソード9 『人魚たちの償い』
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- 2023年3月28日
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エピソード9
父とアントニーは、ねぐらの確保を目論んだ。
しかし、建築素材となりそうな棒切れは、ほとんど見つからない。
ヤシの木に枝はないのだ。
どこからか流れついた流木を、二人は必死にかき集めた。
流木探しに3時間を費やせども、集められたのは十数本ほどだった。
日差しは真上に上ってきた。それだけでもう、二人はくたびれ果てていた。
しかし2人は、休むことなくねぐら造りに取り掛かった。
棒切れを地面に突き刺して、家の枠組みを造ってみたが、
どうにも、犬小屋に毛の生えたサイズのものにしかならない。
ヤシの葉を拾ってきて、屋根代わりにかぶせてみたが、
一家4人が風雨をしのぐには、とてもほど遠い粗末さだった。
男たちが帰ってこないので、
私と母は再び、同じような探索に出向いてみた。
けれどもやはり、思うような成果は得られなかった。
夕方前、4人は旗のところで合流し、
互いの成果を報告し合った。
「じゃーん!」
私は自慢げに魚を見せびらかしたけど、
「火がおこせなければ魚は食べられない」と、一蹴されてしまった。
また、ノドが渇いたから海の水を飲んでみたけれど、
余計にノドが渇いて大変だったと、体験談を報告した。
母は、発表する戦利品が何もなく、小さくちぢこまっていた。
最後に、父とアントニーの作品を、4人で一緒に見に行ったけれど、
やはり4人は、それを見て無言でため息をついた。
私たちはとりあえず、
そのねぐらの下で一休みをすることにした。
しかし、30分もしないいうちに、
木枠はバランスを崩して、倒壊してしまった。
大きなケガは無くて済んだけれど、一同はまた、ため息をついた。
昼間は暑いほどの気候だったのに、
日が落ちると肌寒くなってきた。
びしょ濡れだった服は、昼間のうちにあらかた乾いていたけれど、
それでも夜通し耐えられるのか、不安を感じた。
私たちは、夜の8時くらいには早々に眠ってしまった。
しかし、父は一人、何か助けになるものは無いかと、
月明かりだけを頼りに、夜の浜を探索し続けた。
『人魚たちの償い』