エピソード9 『星空のハンモック』
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- 2023年3月19日
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エピソード9
家に戻ると、リナちゃんだけはまだ眠っていた。
「こんなにお昼寝させちゃって大丈夫なんですか?」私は麗子さんに尋ねる。
「どうもあの子、熱出しちゃったみたいなの。熱射病かもね。」
夕飯を食べると、
カツミくんはヒマ潰しに、ソファでギターを弾きはじめた。
私はそれを、窓際から、ほおづえついて眺めている。
ギター弾く人の手をこんなにまじまじ眺めたのは、初めてだった。
細く長い、女性のような指は、まるで一輪挿しのすずらんみたいにキレイ。
私はたまらずオリンパスを持ち出して、彼の指先をファインダーで覗く。
彼は、私の視線に気づいていない。
どうやら、新しい曲を思いついたらしく、作曲に熱中しているらしい。
私はあれこれと微妙にアングルを変え、フォーカシングを変え、
コレだ!と思ったところでようやくシャッターを切った。
「カシャっ」
「おっ!」その音で、カツミくんは我に返った。
「あ、ごめんなさい。邪魔しちゃって…」
それを見ていた麗子さんは、ニヤニヤしながら言う。
「そういえばハナちゃん、
屋上にハンモックがあるの、教えたっけ?」
「ハンモック?いいですね!」
「行ってきてごらんなさいよ。今日は天気もいいし、星がよく見えるわ。」
「カ、カツミくんも行く?」私は精一杯の勇気で言った。
「行こう」とリナちゃんみたいに大胆には言えない。
「うわー!」
屋上に上がると、空は満天の星。
熊本よりもずっとたくさん、星が見える。きっと那覇も、こんなに見えないことでしょう。
おあつらえ向きに、ハンモックは並んで2つ設置されている。
カツミくんはハンモックに寝転がり、また作曲の続きをはじめた。
私はそれを、うっとりと眺めている。
カツミくんのささやくようなギターは、晴れた夜空に、
ほんのわずかなリヴァーブを響かせて、溶けて消えていく。
やがてカツミくんは、何かぶつぶつとささやきはじめる。
今度は歌詞を作りはじめたらしい。
ふふん ふん ふふん
月とはぐれた 星の子たちは
満天の星空を見て、もう彼は、それを歌に変換してしまったらしい。
何か物語りになっている。きっと童話を作るような才能も持っている。
『星空のハンモック』