15 「昔の私」 VS 「今の私」
…私は、しばらく、考え込んでいた。
声の主は誰?声は幻覚?
「おいで」って、どこへ??
5分考えても、10分考えても、
答えは、1つしか思い当たらなかった。
…沖縄だ!!
私は、あわてて荷造りを始めた!
リュックに、着替えやコスメを詰め込んだ。
私の中の、「昔の私」は、
今が旅行の準備をする時間などではナイことを、
充分に、承知していた。
なにしろ、学校に行かなくてはならない。
だから、私の荷造りを、制止しようとしていた。
私は、
その「昔の私」の声を、完全にムシすることにした。
「しゃべらないで!」とか「聞かない!」とかも、言わなかった。
そうやって交渉をするだけでも、
「昔の私」に引っぱり込まれてしまうと、怖かったからだ。
頭では、何も考えないようにした。
体が、勝手に動いてくれた。
…そもそも、
沖縄旅行にはいったい、何が必要なのか、
私の無知な「頭」は、よく解っていなかった。
「体」に委ねるしかなかった。
私の「体」は、
机の引き出しから全財産を引っつかんで、お財布にねじ込んだ。
いくらあったのか、よく解らなかった。
少なくとも、
10万とか20万とかそういう大金は、持っていないハズだった。
私は、
準備と着替えが終わると、
トントンと階段を駆け下りた。
案の定、お母さんに呼び止められた。
「あら?あんた、学校は?」
「え?あ、うん?言わなかったっけ?
今日、体育祭の代休だよ?」
「は?アンタ、昨日体育祭なんて、出てないじゃないの?」
「日焼けするのイヤだったから、サボっちゃった!
チアキたちもみーんな、サボったよ?」
「何言ってんだかぁ。
そんで今日、アンタたちは体育祭すんの?」
…私がキュロットを穿(は)くのは珍しいから、言及されて当然だった。
「え?違うよ!今日は、チアキたちとピクニックだってば!
言わなかったっけ?」
「言わないわよぉそんなの、ひとっことも。
アンタ、日焼けがイヤで体育祭サボッて、翌日ピクニック?日焼けがイヤなのに??」
バカな私には、
これ以上アドリブでウソを付くのは、限界だった!
「あーもう!バスに間に合わないんだってば!!
だから、パンも食べずに出ようとしてんじゃん!!」
チカラ技が過ぎていることは、重々承知だった。
私は、お母さんの目を見ることが出来ていなかったし、
こんなに乱暴に口答えするコでは、無かった。
「好きになさい、もう。」
「行ってきまーす!」
『星砂の招待状 -True Love-』