18 奉仕される奉仕 『イーストエンドは西の果て』
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- 2023年3月21日
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18 奉仕される奉仕
かいるもまた、楽しそうな顔で、帰っていったよ。
ただしゃべってただけだし、僕はほとんど一方的に聞いてただけなのに、かいるまでもが喜んでいるのを見て、なんだか、フシギだった。なんだか、うれしかった。
「そうさぁ!
『奉仕する』っていうことは、必ずしも、ヒトに何かを与えたり尽くしたりすることだけじゃ、ナイんだよ?
今のぱるこみたいに、徹底的に聞き役に回ることが、『奉仕』に繋がることも、あるのさぁ♪
…まぁ、ぱるこはまだ、『奉仕』というゲームには、ほとんど興味がナイようだけどさ(笑)」
「うん。奉仕って、あんまり考えないなぁ。
…いや、時々は考えるんだけどさぁ、世の中の『奉仕活動』って、どれも『偽善』のような気がしちゃうんだよなぁ。
…とはいえ、何にも動かない僕よりは、偽善でもアクションを起こすヒトのほうが、エラいんだろうけどさ。」
少しの間を置いて、ハイミーが切り出した。
「よし、決めたぁ!
ぱるこ、そろそろ喫茶店を出ようか?会わせたいヒトが居るんだよ♪」
「いいよ?ずーっと座ってるのも、お尻が痛いしさぁ。」
僕らは、店を出て歩きだした。ハイミーは、「西の谷」に行くと言ってたよ。
「西の谷」には、人間みたいな姿のヒトたちが、大勢暮らしているんだってさ。僕みたいに下の世界から登ってきた人たちや、その子孫たちが、暮らしているらしいよ。
10分も歩くと、公園のような場所が見えてきた。
象のカタチのすべり台で、4~5人の子どもたちが遊んでいたよ。
ハイミーは、子どもたちに声を掛けた。
「おーい、みんなー!
このお兄ちゃんにも、すべり台で遊ばせてあげてくれるー?」
子どもたちは、小さな小さなハイミーを、ちゃんと認識出来ているようだった。
それに、ミツバチが人間の言葉をしゃべっても、特に驚く様子はナイようだった。
「えぇー!?僕はもう12歳だよ!?
すべり台なんて、とっくの昔に飽きちゃったよ(笑)」
「まぁまぁ!そう言わずに、一回でもイイからすべってみなよ♪」
ハイミーは、何かを企んでいるようなイタズラっぽい笑顔で、そう言った。
すべり台は、象にソックリだった。大きさも、大人の象くらいだよ。
色はやっぱり、薄いサンゴ色だった。つまり、ペールコーラル色だね。
登ってみると、表面はゴツゴツと、でも弾力があって、まるでホンモノの象みたいだった。
僕は、尻尾から背中へ、背中から頭へ登り、鼻のカタチのすべり台をシュルっと降りた。
「あらー♪私の体で遊んでくれて、どうもアリガト♪」
「え??今、誰がしゃべった??」
子どもの声には思えなかったし、ハイミーの声ともゼンゼン違った。
「私よ!あなた今、私と遊んでくれたでしょー?」
「…!?ホンモノの…象さんだったの…!?」
「あらー♪気付かなかったの?
私のプロ根性って、捨てたモんじゃナイわねぇ♪」
「象さんがしゃべるのは…もうイイとして、なんで、すべり台のマネ事なんかしてるの??」
「『象さん』じゃなくて、『さむすん』って呼んでくださるー?あなたは、ぱるこちゃんでしょう?
あらー♪お会い出来て、うれしいわー!!
…何でマネ事しているかですって?
それはモチロン、『楽しいから』よー♪」
「…さむすんは、子どもたちに体を踏みつけられるのが、楽しいの…??」
「あらー!この子たちは、私を踏みつけているんじゃ、なくってよ?
そんなイジワルな子は、ココには居ないわ♪
一緒に、遊んでいるのよ♪遊ぶことが楽しいって、フツウなコトじゃなぁい?」
「…そうだけどさぁ。
子どもたちは遊んでるけど、さむすんは、じっと耐えてるだけのように見えるよ??」
「『耐えてる』っていうのは、間違いではナイわねぇ。
でも、『耐えてるけど、遊んでる』のよー♪
…あなた、遊ぶときに、何にも耐えないの?
かくれんぼする時、100も数えるの、けっこうタイクツじゃなくて?せまいところに隠れるのも、けっこう大変じゃなくて?
ソレとオンナジようなモノだと、思うのだけれど?」
「ふーん。
でもさ?さむすんが子どもたちのために耐えてるんだったら、『ありがとう』って言うのは、子どもたち側じゃない??」
「あらーどうして?
私が子どもたちに遊んでもらってるのに、どうして、感謝の言葉を要求する必要があるの??
『子どもたちと遊びたい・子どもたちを喜ばせたい』っていう私の欲求に、子どもたちが、応じてくれてるのよ?
そんな私の願望を叶えてくれてるんだから、やっぱり、『ありがとう』で間違ってナイと、思うわー?」
「さむすんは、腰が低いヒトなのかなぁ?
『謙虚なことが美徳』と考えるヒトなのかな?」
「謙虚?…謙虚っていうのとも、違う気がするのだけど…
私、子どもたちとも、あなたとも、対等だと思っているわよー?
『遊びたい』っていう願望も『遊んでもらいたい』っていう願望も、上下などなくて、対等だと思わなぁい??
子どもたちが偉いワケでもナイし、モチロン、私が偉いワケでも、ナイわー?」
「ふぅーん。『子どもたちが偉い』って思ってるワケでも、ナイのかぁ。
僕はまた、てっきりさむすんは、この子の親たちの召し使いなのかと思ったよ。召し使いは、主人やその子どもより、身分が低いもんねぇ。」
「身分?身分なんて、みーんな対等よー♪
『オーラのレベルの上下』はあるけれど、かと言って、ビー玉を多く持っていたって、偉いってコトは、なくてよー?」
「つまり、さむすんは、奉仕活動に生きがいを感じてるんでしょ?
子どもたちの喜ぶ顔で、元気になれるとか、さ?」
「奉仕…奉仕に関連する紫のビー玉は、何百年も昔に、授かったわ?
だから、奉仕なんてコト、今更コレといって考えたりも、しないけど…
私、たとえ子どもたちに感謝されなかろうと、やっぱりこの作業が楽しいし、子どもたちに対して感謝を感じるわよー?
もし、『子どもたちに感謝されるのがうれしいから、やる』って言うんであれば、そんなのは、『奉仕』とは呼ばないわよねぇ。
それだと、『対価のために賃金労働している』のと、あまり変わらないんじゃなくって??
ただ単に、その対価が、『お金か言葉か』って違いが、あるだけよねー。
言葉の対価が、お金の対価よりもうれしいヒトだって居るのだから、言葉の対価を動機に何かをするのなら、
そんなのは、『奉仕』とは言えないわねぇ。」
「そうなの!?
僕、お金をもらわずにやる作業はぜーんぶ、『奉仕』って言うのかと思ってた!!」
「あらー気が合うわね♪
私もつい1000年くらい前までは、あなたとオンナジ勘違いをしていたわー(笑)…その頃は、人間だったけれど。
そうねぇ。たとえばよ?
私が、工務店を営んでいるとして…地震で家を失った人たちに、プレハブ住宅を提供するとするわ。プレハブ小屋には、私の会社のロゴが入っているわ。
…さぁて、コレって、奉仕??」
「うーん…
そういうのって、『売名行為』って言うんじゃないの?」
「あらー、正解♪
あなた、若いのにアタマがイイのねー!!
そうなのよー。たとえ無報酬で家を提供したとしても、その家を無償提供したうわさが広まって、みんなが家を見に来たら、私の会社が提供したってコトも、バレてしまうわ。
それを見て、『この会社は立派だから、この会社で家を建てることにしよう!』って思う人が現れちゃったら、遠まわしに対価をもらったのと、オンナジことよねー!対価じゃないにしても、宣伝だわ。宣伝行為。
プレハブ小屋に会社のロゴを刻み付けるってコトは、少なからず、そのようなお客が現れるコトを期待しながら、家屋提供をしたってコトよねー!
コレは…『奉仕』じゃなくて、『偽善』よねぇー(笑)
…モチロン、その提供行為によって、命が救われるヒトも居るかもしれないわー♪
だから、決して、『否定的な行為』とも言えないでしょうねぇ。」
「僕が何となく思ってたことって、間違いじゃなかったんだなぁ。
やらないよりは良いのかもしれないけど『奉仕』じゃナイって、ずーっと思ってたんだよ。
さむすんのハナシを聞いて、胸のつかえがすーっとしたよ♪」
「あらー♪お役に立ててうれしいわー!
でもね、こういうことを自分のアタマで理解しないことには、『奉仕』のゲームは、クリア出来ないのよねー。
つまり、紫のビー玉は、もらえないのよ。
あなた今、紫のビー玉を求めて頑張っているのー?」
「ううん。紫のビー玉は、さっきこの国に来るときに、ピンクの雲からもらったよ。」
「あらー!その若さで、紫をクリアしてしまったのー!?ステキ♪」
「…でも僕、奉仕活動なんて、ほとんどやった記憶がナイよ?
それなのに、クリア出来ちゃったの??」
「クリアするのに大切なことは、厳密には、行動よりも、『心掛け』なのよ。
まず、『偽善』と『奉仕』の違いを理解していることが、必要だわ。
そして、本当の奉仕っていうのは、誰も見ていないところや、日々の暮らしの中で、行われるものなのよ。きっとあなた、自分で意識していないだけで、日常の中で『奉仕』を実践してたのよ♪」
「そうかぁ。なんかよくワカンナイけど、誰かが困ってたら、そっと助けるのが当たり前だとは、思って暮らしてるよ。たしかにさ。知らないおばあちゃん助けるために学校に遅れたとしても、イチイチ説明しないよ。自慢もしない。
そういう手助けが、当たり前だと思ってたけどなぁ。父さんも母さんも、そんなふうにしてたからさ。」
「あらー♪あなた、ステキな家庭で育ったのねぇー!
ご両親に、お目に掛かってみたいものだわー♪」
「さむすんは、亀のたるとのこと、知ってる?彼は、父さんの知り合いらしいけど。
さむすんも、何百年もココに居たんだったら、父さんに会ったこと、あるのカモね!」
「ホントー!?あなたのお父様、ねむりあ出身のお方なのー?
ココから人間に肉体転生するヒトは、ほとんど居ないけれど…」
「あ、くらむぼんは、『オールドソウル』とか言ってたよ。僕も父さんも、『オールドソウル』だってさ。
何か、ヒントになるかな?」
「あらー!!
『オールドソウル』で人間界に転生したお方って…あのヒトしか居ないんじゃないかしらー!?
他にも、居るのかしら!?あらー♪♪」
「僕の父さんって、有名人なの??」
「有名も何も…!!
…ところであなた、かっしーにはもう、お会いになって?」
「『かっしー』って、度々聞く名前だなぁ。まだその人には、会ってないと思うよ。
ねぇ、ハイミー?」
「うん。
ぱるこはまだ、藍色をクリア出来てないから、かっしーには会えないよ。
ココに居る間に、会えたらイイんだけどなぁ…」
「あらー!?
あなた、『オールドソウル』なのに、藍色はまだ、クリア出来ていないの?
フシギな子ねぇ…
そうだわ!
藍色のオーラを鍛えるのに打ってつけのお友達、紹介しましょうか♪
私とオンナジ、象の、『らおす』ちゃんよ♪
彼も、『西の谷』に居るわー。人間の大人たちと、どこかでおしゃべりしてると思うけれど…」
「坊さんらおすかー!
そりゃたしかに、今のぱるこに打ってつけの人だねぇ♪
さむすん、どうもありがとう!
子どもたちも、ジャマしちゃってゴメンね!」
ハイミーは、愛想よくみんなにあいさつをして、僕らは再び歩き出した。
『イーストエンドは西の果て』