24 常識破りの恋愛観
辺りは、暗くなり始めていた。
時計なんて持っていないから、時間の感覚は、サッパリ麻痺していたよ。
でも、すでにもう、この国に1週間くらい居るような気がした。
どうやら、非・日常的な環境にいると、普段の日常よりもずーっと、時の流れが早く感じるんだね!
小学校に入ったばかりの時に、コレとオンナジような感覚を味わったのを、思い出したよ♪
…逆を言えば、それ以来、5年間もの間、僕はこういう「非・日常的なワクワク」を、味わっていなかったんだなぁ。
僕は、同時に、「生きている」ってこういう感覚なんだって、気付いた!
普段の僕は、「ただ、生命を維持している」ってだけで、「生きている」ワケでは、なかったんだよ!
こういう、今みたいな興奮を味わっていない時は、「生きながら、死んでいる」だけなんだよ。「生きながら、死んでいる」状態で何百年生き延びたって、そんなのゼンゼン、うれしくナイんだ。
父さんが、世間の目も気にせずに、個性的な人生を選んで生きている理由が、僕にも解る気がしたよ。あのヒト、ただの「お花畑ちゃん」じゃぁ、なかったんだなぁ(笑)
「ところで、今僕ら、どこに向かってんの?」
「そろそろ真っ暗闇になっちゃうからねぇ。寝床に向かうんだよ。」
「ホテル?僕、ホテルって泊まったことナイなぁ。」
「ホテルでは、ナイよ(笑)
ただの、民家だよ?」
「民家!?見知らぬヒトの家に、寝泊りすんの!?
僕はイイけどさ、そんなの受け入れてくれるヒト、居るワケないよ!」
「そうかなぁ?
さっきの女のヒトは、見知らぬぱるこに、『いくらでもナンをごちそうする』って、言ってたよぉ?」
「それはそうだけど…
誰か、来客に慣れている一家が、居るのかなぁ。
…で、どの家にお世話になるの??」
「どの家でも、イイよ♪」
「へ??」
「どの家でも、ぱるこのフィーリングでピンと来た家の前で、『おじゃまします』ってあいさつしてみたらイイよ♪」
「マジで!?
…って言っても、どれも似たような家だから、フィーリングって言われても難しいなぁ。
次に通りかかる家でも、イイ?」
「モチロンさぁ♪」
僕は、次に通りかかった何の変哲もナイ民家の前に、立ち止まってみた。
もう肌寒く、薄暗い時間だから、サスガに玄関は閉められていた。
「ドキドキ…だいじょうぶかなぁ…」
「さぁ、勇気を出して♪」
ハイミーは、楽しそうだった。他人事だから、ノンキに笑ってられるのさ!
「わ、わかったよ!」
僕は、深呼吸して、無意識的に、服のエリや頭髪を整えたりしていた(笑)
「すいませーん!誰か居ますかー??」
………
「はいはーい?
あら!あなたは、さっきの男の子…」
「ぱ、ぱるこです!
あのぅ…イキナリ、ぶしつけなんですけど…と、と、泊めてもらえたり、できますか!?」
「えぇ、構わないけど…我が家で、イイのかしら?」
「は、はい!あなたの家が、イイんです!!」
「まぁ!光栄ですこと(笑)
じゃぁまずは、奥へお入りなさいな♪」
その晩、僕を受け入れてくれたのは、30歳くらいのほっそりとした女性だった。
そして、その家族たち。旦那さんが居て、7~8歳の男の子と女の子が、1人ずつ、そして…
…???
もう1人、30代後半くらいの女性が、居た。
旦那さんが、穏やかな笑顔で、僕に握手を求めてくれた。
彼の優しそうな微笑みを見て、僕のキンチョーは、一気に溶けた♪
子どもたちは、もう1人の女性の影に隠れてる。ハズカシそうに、でも興味津々の眼差しで、僕のことを見つめていた。
「えぇと、旦那さんですよね?」
面白いモンで、動物の姿をした生き物に対しては、ためらいなくタメ語で話せるのに、人間の姿をしたヒトには、敬語が口をついて出てしまうようだった。
「いや、『旦那さん』っていうのとも、違うんだけどね(笑)
でも、『この家の主』と言う表現なら、間違ってはいないと思うよ♪」
「え?旦那さんじゃナイの…?えぇーっと…」
ひょっとして、僕、厄介な三角関係の家庭を、選んじゃったのかなぁ…
不倫をするような男のヒトには、見えないんだけど…。
ハイミーが、待ち構えたかのように、フォローを入れてくれた。
「ねむりあとかの『謎の文明』では、下の世界の『結婚』の概念は、ナイんだよぉ(笑)
彼女たちは、仲良く、1人の魅力的な男性を、シェアし合っているのさぁ♪
嫉妬とか独占欲とか、そういう醜い感情も、ココの人たちは、持たないよ♪」
「えー!そうなんだ!?
恋愛のことは、僕にはまだよくワカンナイけどさ、嫉妬とか独占欲とかがメチャクチャ厄介なコトってぐらいは、知ってるからなぁ…
そういう感情を、克服しちゃってるってことでしょう?スゴい人たちなんだね!!」
「イヒヒヒ!
この家庭に限らず、『謎の文明』の人たちは、最初から、嫉妬や独占欲のような感情を、感じないんだよ♪」
「どういうこと??」
「嫉妬や独占欲ってモノは、『恋愛は一対一で在るべきだ』という前提があるからこそ、芽生えてしまう感情なのさぁ。
最初から、『複数の異性が、複数の異性をシェアし合うモノだ』っていう価値観で暮らしていれば、嫉妬も独占欲も、感じないモノなのさぁ。」
「…そういうモンなの?」
男の人が、説明してくれた。
「下の世界でも、ココと似たような恋愛観を持っている地域が、あるんだよ?」
「あ!ターバン巻いてる人たちのこと!?
以前、父さんに、『奥さんが大勢居る人たち』の話、聞いたことあるよ!」
「そうだね♪
ターバンを巻いているとは限らないけれど、イスラム教地域の人たちは、『一夫多妻制』の価値観を、持っているよ。
…一夫多妻制っていうのは、1人の旦那さんに対して、何人かの奥さんが一緒に暮らす仕組みのことだね。」
最初に出迎えてくれた女性が、口を挟んだ。
「まず、座って落ち着いたらどうかしら(笑)
お腹は、空いていますか?
軽食でも夕食でも、どちらでも出せるけれど…。」
「あ、ありがとう!
お腹はあんまり空いてナイけど、暖かい飲み物がもらえたら、うれしいなぁ。」
「チャイでイイかしら?」
「チャイって??」
「その、『ターバン巻いてる人たち』が好きな、ミルクティーみたいな飲み物のことだよ♪」
ハイミーが説明してくれた。
「それ!お願いします!!」
僕らは、座卓に腰を下ろして、くつろぎながら話を続けた。
家の中は、とてもシンプルだった。
家自体は、石を積み重ねて、しっくいで固めて、組み立てたモノだった。内側から見ても、石壁はむき出しだった。原始時代にタイムスリップしたみたいなキブンになった。
けど、部屋の中には、ウチにあるのとよく似たような、テレビが置いてあった!!
原始生活とハイテク生活が、ごちゃまぜになったようなカンジだよ。
僕は、この感覚が割りと気に入った♪憧れの、「ツリーハウスの秘密基地」に、暮らしてるようなキブンになれるからさ♪
壁には、子どもたちが描いたであろう絵が、何枚も貼られていた。
彼らがどんな生活を送っているのか、ものすごく、ものすごく、興味を惹かれた!!
1ヵ月くらい、暮らしてみたいと思った。
子どもたちとも、たくさんしゃべってみたいと思ったし、たくさん遊んでみたいと思った!!
中でも、『結婚しないで、複数の男女が同居する価値観』には、一番ビックリした!
以前、父さんから、『奥さんが大勢居る人たち』の話を聞いたときは、どこか他人事のようなカンジがしちゃってた。自分には関係のナイことだと思ったし、野蛮な人たちなんだと、感じちゃってた。
でも、この男性は、野蛮どころか、とても成熟した人間だよ!
「アセンションを達成する」ってこういうことなんだと、解った。とてもアタマがイイ人だったけれど、それをひけらかすようなトコロもなければ、リクツっぽいところも、なかった。
この2人の女性たちが、この男性を2人でシェアしてでも同居したがるキモチは、わかるような気がした。
彼のようなヒトが先生だったら、学校はとても面白いだろうと、思った!!
…案の定、彼は、この集落で学校の先生をやっていた。
彼から教わった話を、ぜーんぶキミに話して聞かせるなら、図鑑が1冊、書けそうなくらいだった(笑)
いつか、それも書いてみたい気もするけれど、今回は割愛することにしておくよ。
彼は、急な来客である僕のために、夜中まで付き合ってくれた。
この家に、時計というモノは存在しなかったけれど、夜中の3時くらいまで、話し込んだと思う。
他の家族たちは、それより3時間くらい早く、床に就いていた。みんな1つの部屋で、川の字のようなカタチで眠っていた。
彼は、夕飯の準備は女性に任せっきりだったけれど、女性たちが眠ってしまった後には、僕に夜食を作って、ごちそうしてくれた。
「げっとう」という植物をふんだんに使った、ラザニアのような料理だった。とても、美味しかった♪
…美味しいだけじゃ無かった!!
彼のラザニアを食べると、僕の両手が、モワモワ、ポカポカした!!
「げっとうは、強いエネルギーを持った万能植物なんだよ♪」と、彼が教えてくれた。
…正直、夜中の3時になっても、僕は別に、眠くなかった(笑)
まだまだ、話し込んでいたかった。それくらい、彼の話は興味深かった。
そして、「例え話」の使い方が、ものすごくものすごく上手だった!僕も、彼のように言葉を操れる人間になりたいと、思ったんだ。
眠るとき、僕は、みんなとは別に、居間で眠るんだと思ってた。
けれど、彼は、初対面である僕もまた、みんなの眠ってる寝室に通してくれた。
…それが当然であるかのようだった。
寝室に入って、もっと驚いた!!みんな、素っ裸で眠ってたんだ!!
子どもたちだけじゃなく、大人の女性たちもだよ!?
僕は恥ずかしくて、…でも裸を凝視したくて、困っちゃった(笑)
彼は、僕の動揺に気付いて、クスクス笑った!
小さな声で、
「好きなだけ、見たい場所を見ればいいよ。
なんなら、オナニーもすればイイよ♪」
と、ホンキで、でもとても上品に、ささやいた。
僕はお言葉に甘えて、2人の裸をマジマジと眺めた。
…タオルケットが、ちょっとジャマだった(笑)
おちんちんがビンビンうずいた!!
ハートがドキドキした!!
ものすごい、うれしかった!!
ものすごい、ハッピーだった!!
けれど、オナニーっていうのはまだ知らなかったから、ひとしきり観察したら、タオルケットを被って眠ってしまった。
『イーストエンドは西の果て』