28 紫色の占い師
さむすんの居る集落から、30分歩いても、次の集落は見えなかった。
時間だけが、容赦なく、過ぎていった…
僕は、だんだん不安になってきた。
ここまで来て、ウワサのかっしーとやらに会えずに帰るのは、残念すぎる…
更に30分も歩いて、ようやく、集落にたどり着いた…!!
やはり、メイン通りのはずれに、奇妙な動物が陣取っていた!
だいすと思われるヒトは、大きな体のサイだった。
でも、色はやっぱり、サイらしくなかった。濃い紫色をしていた。
「やぁ!キミ、だいすさんだよね?僕、ぱるこって言うんだ♪
昨日、ねむりあの国にやってきたんだけど、今日、下の世界に帰らなくちゃいけなくて…」
「…つまり、ぱるこ君とやら、キミは、ヒドく困っているというワケさね?
それで、優秀な占い師である私を、尋ねて来たと…
良かろう良かろう。
私は、困っている人間は、放っておけないのだよ♪」
「ほんとー!?助かったー♪
実はさぁ、らおすの禅問答が解けなくて、困ってるんだ…」
「禅問答とな!?
それで、答えを占いに頼るのかえ?」
「え?う、うん…
禅問答ってさ、本当は、1週間でも1ヶ月でも、自分でじっくり考えなきゃいけないんだよ。
本当は、僕もそうしたいトコなんだけど、色々ワケがあってさ。今日中に、答えを見っけなきゃなんないんだ。」
「そうか。とにかく、困っているのだな?
私は、理由をアレコレ問い詰めたりはしない。
ただただ、困っている人間は、放っておけないのだよ。
では早速、占ってしんぜよう!」
「…ちょ、ちょ、ちょっと!
禅問答の問題、聞かなくてイイの!?」
「キミ!私は優秀な占い師だよ?
皆まで言うなかれ。問題を聞かずとも、答えは、出せる。」
「へぇ…そういうモンなんだぁ。すごいなぁ。」
「ぱるこ君とやら、 ココロの準備は、良いかな?」
「う、うん!お願いします!」
「では、私の身体を、投げてみたまえ。」
「へ!?」
「私の身体を、投げてみたまえ。」
「…えっと?そんなに大きなカラダは、投げられそうもナイけど…」
「『崇高な儀式』は、避けては通れないのだよ。
…なぁに、『投げる』という表現は、言葉のアヤだ。
身体の小さき者や体力の弱き者は、『儀式』を簡略化すれば良い。
私の身体を、チョンと押してくれれば良いのだよ。」
「チョンと?押せばいいのね?」
僕は、何やらよくワカラナイけれど、恐る恐る、彼の身体をチョンと押した。
「サイは投げられた!!」
だいすは、急に大声でそう叫んだかと思うと、その巨体からは想像も付かない軽やかなステップで、クルクルと踊り始めた!
「ぽかーん…」
1分くらいも踊ると、やがて、彼は踊り疲れてぶっ倒れてしまった!
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…
占いの結果が、ぜぇ、ぜぇ、出たもうた!ぜぇ、ぜぇ…
私の格好が仰向けゆえ、答えは、『太陽』なり!!」
「…え?…た、太陽…??
それって、どういうイミなの?」
「占いの結果とは、常に、『象徴』のみである。
キミの抱いている悩みにとって、『太陽』が何を意味するかは、キミにしか、わからない。
私が行える手助けは、以上なり!
では、行くがよろしい。」
「…へ?お、オシマイなの??」
「行くがよろしい。幸運を、祈る!」
僕は、何とも腑に落ちなかったけれど、その場を立ち去ることにした。
ただ、ちょうど入れ替わりで、新しいお客さんが訪れたから、あわてて足を止めた。
次のお客さんが占ってもらう様子を、少し離れた場所から、見ていることにしたんだ。
「…そうか…困っているのだな?
私は、理由をアレコレ問い詰めたりは、しない。
ただただ、困っている人間は、放っておけないのだよ。」
だいすは、さっきと同じセリフを口にしていた。
その後のやりとりも、まるでRPGの『町のヒト』みたいに、判を押したみたいに、オンナジ言動を繰り返していた…
さっきと同じように、踊り始め…
さっきと同じように、ぶっ倒れた!
…やっぱり、仰向けだった…
そして、やっぱり、『太陽』であり、僕のときと同じような、注釈を添えた…
そのお客さんは、満足そうに、帰っていった。『太陽』のイミが、すぐに解ったらしい…。
僕は、しばらくそこで、考えていた。『太陽』のイミや、だいすの言動や、肝心の禅問答の答えについて、ほおづえをつきながら、ぼーっと考えていた…
10分もすると、また新しいお客さんが訪れたようだった。
お客はみんな、他所の集落から来ているようだった。みんな、だいすに占いを頼むのは、初めてのようだった。
僕は、考えるのをいったん止めて、また、お客さんとだいすとのやりとりを眺めていた。
だいすはやっぱり、判を押したように、同じ言葉を口にした。
そして、同じように踊り、同じように、ぶっ倒れた。
…答えは、『太陽』だった…
『イーストエンドは西の果て』