3 勇者と宝箱 『イーストエンドは西の果て』
- ・
- 2023年3月21日
- 読了時間: 3分
3 勇者と宝箱
…15分も走っただろうか。
いつの間にか、辺りはとても、薄暗くなっていたよ。なにしろ、僕が家を出てきたのは、夕方5時過ぎだったからさ。
それに加えて、藪はとても深くなった。けもの道がうっすらと続いているのが、せめてもの救いだった。
きっと父さんは、時々、この藪を通り抜けていたんだと思うよ。「いなずまの剣」でも振り回しながらさ(笑)
更に5分も走った頃。僕は、目の前に広がる光景に、目を疑った…!!
藪の中に、とても大きな樹が、そびえ立っていたんだ!!!
ミツバチは、僕が追い掛けてきているのを知ってか知らずか、常に同じペースで、飛び続けていた。
大樹のふもとまで来ると、今度は、幹を駆け上るように、上空へと上っていった…
そうして、あっと言う間に、姿が見えなくなっちゃった!!
…僕は、ハっと我に返った。
「こんなトコロで何してるんだ!?」
自分で自分に尋ねてみたけれど、モチロン、何の答えも無かった。
大人気なくカっとなって、ミツバチを追いかけて、「立入り禁止」の向こう側に侵入したってだけさ(笑)
「どうしよう…引き返そうかなぁ…」
戸惑ってキョロキョロしていると、樹の根元に、小さな宝箱が置いてあるのが見えた!
僕は、目を丸くした!!!
「ホントに、RPGの世界に迷い込んじゃったのかな!?」
…喜んでイイのか、泣いてイイのか、なんだかもう、よくわからなかった…
現実なのか、夢なのか、ゲームなのか、そんなことも、よくわかんない…
宝箱に近づいてみると、苔むして、薄汚れていた。何年も、誰も触っていないようだった…
僕は、開けようか、迷った。
…コレが、ゲームだとしたら…
勇者がヘトヘトにくたびれたところに、宝箱が置いてあったなら…それは起死回生の「伝説のアイテム」か、それとも瀕死に追い討ちを掛ける「ミミック」か、どちらかさ!!
こんなトコロまでやってきて、宝箱を開けずに引き返すのは、「勇者らしくない」と思った。
それに、たとえミミックだったとしても、倒せればお宝を落としていくことが、多いんじゃなかったかなぁ?
…つまり、「僕が『立派な勇者』なのであれば」、開けてソンすることは、何もナイはずなんだよな…
「…はたして僕は、『立派な勇者』だろうか??」
僕は、しばらく考えてみた。けれど、よくわからなかった(笑)
疲れていたし、そもそも、「立派」ってどういうコトだろう??
僕は、体力には自信があった。長距離走はそんなに得意じゃナイけれど、短距離走ならクラスでも速いほうさ。
知恵は、ある方だと思った。…周りのヤツらは、「ズル賢い」って言うだけだけど…(笑)
改めて、自分を見つめ直してみると、僕は、あんまり勇者らしくナイと思った。
…敢えて、勇者との共通点を挙げるなら、「時々、他人の家のモノを、勝手に盗ってしまうこと」ぐらいだと思った…(笑)
…そう考えてみると、なんだか、悔しくなってきた…
僕は、「勇者のようになりたい」と思って生きてきたハズだったし、政治家や地主のような「本当のバカ」にだけは、死んでもなりたくなかったハズなんだ…
体力にだけは自信があって、
ズル賢くて、
他人のモノを時々かっぱらって…
マズイぞ!?僕は、「勇者のような人間」というよりも、「本当のバカ」な、政治家や地主みたいじゃないか!!!
それはマズい!!自分が軽蔑するような人間と、同じになっちゃダメだ!!!
…僕は、そうして、30分くらいも考え込んでいた。辺りはすっかり、暗くなっていた…
僕は、意を決して、宝箱を開けてみることにした!!
幸い、カギは掛かっていないようだった。箱はサビ付き、苔むして、硬かったけれど、頑張れば開きそうだった!
僕は、チカラを振りしぼって、宝箱をこじ開けた!!
『イーストエンドは西の果て』