40 嫌われ者とハグ、そしてキス
…これで、3階の部屋は、全部制覇したことになった。
ハイミーに、残り時間を尋ねてみた。
「えぇっとねぇ、残りはあと、45分くらいだよぉ。
ちょうど半分、時間を使ったねぇ!少し、スピードアップしたほうがイイと思うけど…」
僕は、急いで階段側まで引き返し、2階に下りた。2階も、階段側から順番に、見ていくことにしたよ。
ハイミーに急げと言われたから、休むことなく、7つ目のドアをのぞいた…
「ひぇー!!?」
心臓が飛び出るかと思った!!
7つ目の部屋に居たのは、なんと、大サソリだった!!大人のワニくらいのデカさだった!!
…ホントに、RPGの世界に迷い込んじゃったのかと思った!!!
「…ザンネンだなぁ。
私の姿を見て、おびえちゃうんですか?
たしかに、私のハサミは実際によく切れるし、鋭い尻尾の針には、猛毒が含まれているんですよ。
でも、別に、何の悪さも犯していないぱるこさんを、いきなりチョン切ったり、突き刺したりは、しませんよ♪
私の言葉を信頼して、他の方々にされていたように、ハグをしてもらえますか?ほっぺにキスも…してもらえますか…?
…あ!私、こう見えてもいちおう、乙女ですので…♪」
「えぇー!!…っっとぉ?
キミが、かっしーなんだよね?
モチロン、喜んで、ハグしたいと思うよ!…アハハハ…」
僕は正直、メチャクチャためらってしまったんだけど、でも、見た目で相手を決めつけないように、瞬時に、自分に言い聞かせたんだ!
ハサミに触れないように、身体の側面に回りこんで、ゴツゴツした胴体に、両手を回して抱きしめた。
表面はヒヤっと冷たく、けれど、なぜか同時に、温かい空気も感じた…
「うれしいです♪
私…こんな外見だから、この国のヒトたちでさえ、私には近づこうとしてくれなくて…」
「そ、そうなんだぁ!?
あははは…よ、よ、良かったねぇ♪僕も、ハグ出来てうれしいよ!」
「…あの、キスは…?
…ほっぺにキスも、してもらえますよね?
私…キスってまだ、経験したことがなくて…」
「も、モチロンだよっ!お安い御用さ!!」
僕は再び、ハサミに触れないように気を付けながら、彼女の頭部の前まで、入り込んだ。2本のハサミに挟まれる格好になるから、さっきよりも更に、注意が必要だった。
僕は、彼女の大きな瞳の下の辺りに、そっと口付けをした…
それは、僕にとっても、両親以外にした、初めての口付けだった…
そして同時に、ハっと、もっちーのハナシを思い出した!
彼女は、ブス子ちゃん…かどうかはよくワカンナイけど、みんなに好かれないコのようだから、彼女にキスをしたのは、ペールコーラルのレベルアップに繋がるんだろうか?
後でもう一度、もっちーのところに行って、聞いてみたい気もした。
「…えぇーっと、キミは、かっしーなんだよね?」
「あの、私は、かっしーなんですか??」
「へ!?キミ、自分の名前を、知らないの?」
「はい。誰からも、名前を呼ばれたことが、ナイんです。
かっしーという響きに、懐かしさを感じるような気もするし、思い違いのような気もするし…」
厄介だなぁ…
僕は、いったん彼女から注意を離して、部屋の中を見回してみた。
この部屋は、床には砂が敷き詰められていた。サソリって、砂漠のイキモノだったっけ。
家具という家具は、ほとんど無かった。大きな鏡が置いてあった。
「あ、あのさ?
僕、そろそろ行くね?
とりあえず、全部の部屋を回ってみるつもりなんだ。
そんで、キミがかっしーぽいなぁって思ったら、また会いに来るね!
…キミのこと、キライになったんじゃナイからね?こ、怖いとも、思ってナイよ?また後で、ハグもキスも、しようよ♪」
僕は、一方的にそうまくし立てると、急いで部屋から飛び出した。
『イーストエンドは西の果て』