42 「マフィアのボス」のようなヒト
トタン屋根ガレージの喫茶店には、
旅行者は、2~3人しか居なかった。
僕と同じバスで来た50人は、どこに行ったんだろうか?
僕よりも手続きを手間取っているヒトが存在するとは、到底、思えなかった。
すると、50人は、
「まだ来ていない」のではなく、「先に行ってしまった」可能性が、高かった。
それしか、考えられなかった。
僕は、取り残されてしまったのか。
オーダーを取りに来た、ガメツそうな、酷く太ったおばさんに、
「バスはどこ?」と尋ねてみた。
彼女は、
「バスはまだ来ていないから、しばらくここで休んでなさい」と、答えた。
僕は、この場所で飲食をする気には、なれなかった。
これ以上、この場所に、お金を落としたくはなかった。
バスは、なかなか来なかった。
雨は、相変わらず、激しく降り続けた。
トタンの屋根は、雨音が強烈に響き、激しい雨を、より激しいものに感じさせた。
まだ1時にもならないのに、
空は闇よりも暗く、キブンを憂鬱にさせた。
びしょ濡れのカラダでは、サスガに、寒くなってきた。
かと言って、
リュックの中の防寒具になりそうなモノは、すべてヒドく湿っていて、
使い物にはならなかった…。
よっぽど、温かいコーヒーでも飲もうかと思ったけれど、
やっぱり、この場所にお金を使うのは、ガマンならなかった。
やがて、眠くなってきて、
寒さに震えながらも、少し、うたた寝をした。
30分くらい、うたた寝していたようだった。
誰かが僕のカラダを激しく揺さぶったので、僕は、ハっと目を覚ました。
「バスが来たよ!」
気が付けば、
ドシャ降りだった雨は、上がっていた。
空は、幾つかの綿菓子を残して、真っ青に晴れ上がっていた!
空気が浄化されていた。僕のココロのモヤも、少しは、晴れていた♪
おばさんに追い立てられて、
僕は、更に先まで、小走りで進んだ。
簡素な駐車場があって、1台のワゴン車が停まっていた。
車の横には、
白いYシャツに黒いスラックス、金のネックレスという、
「マフィアのボス」みたいな格好をした、小太りなカンボジア人男性が、
ガムをクチャクチャさせながら、立ち尽くしていた。
マフィアのボスは、僕が近づくと、
「プノンペンか?」と、淡白に尋ねた。
それは、これから目指す予定の、カンボジアの首都の名前だった。
…だから、「Yes」と答えると、
彼は、「乗れ!」と、アゴで僕に指図した。
僕は、言われたとおりに、車内に座った。
まだ、誰も居なかった。
しばらく、静かに待っていた。
10分もすると、3人ほどの旅行者が、車に乗り込んできた。
彼らは、どうやって国境まで来たんだろう?
大手会社のツアーバスでは、ナイようだけど…
タクシーか何かをチャーターして、個人で来たのかもしれない。
やがて、マフィアのボスは、
トランシーバーで後続が居ないことを確認すると、車を走らせはじめた…
『永遠の楽園』