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42 マツタケ

42 マツタケ


私は、再び、郵便局を見つけた。

その前を通り過ぎ、さらに歩いた。

集落の入り口付近に、舞い戻ってきた気もする。

…でも、今歩いている道は、

多分、さっきは通っていない。


そのままのんびり歩いていると、

…見つけた!

「松茸荘」

白雪姫の世界から友情出演を果たしてくれた、

あのガジュマルが言っていた「マツタケ」は、

これのことだったのだろう。


私は、庭に踏み入り、

開け放たれた玄関から、「コンニチワー!」と叫んでみた。

しばらくして、「はい、はい、」と聞こえたかと思うと、

しわがれたお爺さんが、現れた。100歳近いと思われる。

「あの、

 今日一晩、泊めてもらえますか?」

私は、ゆっくり、確実に、言った。…耳が遠そうだったからだ(笑)

「んにゃぁ、ムリだぁ。

 今日は、満杯だぁ!」

「えー!!」

ショックだった!

あのガジュマルは、「悪い木の精」だったんだろうか!?

それとも、

私があんまりにもグダグダ散歩しているから、

予定外に、埋まってしまったんだろうか…


つい3分前まで、

ランナーズ・ハイがどうとか、「無敵マリオ」がどうとか、

自信満々に威張りくさっていたハズだったのに、

途端に、あっけなく、私の心は萎(しぼ)んでしまった…

脇の下にどっと汗が噴き出し、不安な鼓動が止まらない…。

私は、

何か、とても重要なタイミングを、

…ヒロさんのコトバで言うなら、「シンクロ」を…

逃してしまったのかもしれない…



「そこをどうにか、なりませんか…?」

内気な私には珍しく、食い下がらずに粘ってみた。

「いやぁ、ならん。」

おじぃの目は、

まるで時空の裂け目でも覗いているかのように、宙を漂っていた。

…少なくとも、会話相手である私のことは、見てくれていない…

「えぇぇぇぇー…!!」

と、なんとも軟弱な声を上げ、

私は、ヘナヘナと、へたりこんでしまった。


「…どうしたぁ?お客さんかえ?」

私のヘンな奇声を聞き付けたのか、

中から、70歳くらいのおばぁが駆け付けてきた。

私の顔を見るなり、

おばぁは、ビックリするようなことを言った…!

「…おやぁ!

 アタシ、今朝、夢で、

 アンタと全くオンナジ顔のコを、見たがねー!

 …男の子か女の子かワカランかったが、

 アンタと全くオンナジ目を、しとったわぁ。」

「えー!?」

私には、それ以外にコトバが見つからなかった。


「…んで?

 アンタ、どないしたん?」

このおばあぁなら、まともな交渉ができそうだ。

「…いえ、私、

 まだ、今晩泊まる宿を、取ってないんです。

 こちらで泊めてもらえたら…って思ったんですけど、

 『満室』って言われてしまって…」

「おじょうちゃん、1人かえ?」

「はい。1人で来ました。」

「…ふむん。

 …おじょうちゃん、

 クーラー無しでも、ガマン出来っかなぁ?無理やんなぁ。」

「え?クーラー…

 暑いのは、ニガテと言えばニガテですが、

 ガマン出来ないことは、ナイかと…」

「…そしたらよぉ、

 クーラー壊れてる部屋だけ、空きがあるんじゃが、

 そこでもエエっちゅうなら、泊められんことも、ねぇなぁ。」

「ホントですか!?

 ぜひ、お願いします!!」

「そかそか。

 じゃぁ、案内すっから、着いてこぃ?」


私は、そのおばぁから、

一通り、宿の案内を受けた。

大きな母屋に幾つも和室があり、それぞれが、客間だった。

客間と客間は、ふすま一枚のみで隔てられていることもあった。

…あんまり大きな声は、出せそうも無い。

シャワーは、別の建物にあった。

サンダルを履いて、外を通っていく必要がある。

シャワーは、お湯は出るけれど、

とても古く、質素な空間だった。

「昭和」というか、「大正」というような雰囲気かもしれない…


素泊まりなら、3,000円。

朝食のみ付なら、4,000円。

夕食・朝食付なら、5,000円だった。

私の残りのお金は10,000円ほどだったので、

1泊は出来そうだった。

夕食・朝食付・5,000円で、お願いすることにした。



私は、

宿泊することが正式に決まると、

真っ先にシャワーを浴びて、

そして、すぐに眠ってしまった…



『星砂の招待状 -True Love-』

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