44 「否定的な色メガネ」
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- 2023年3月11日
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44 「否定的な色メガネ」
車は、更に1時間も走ると、
田園風景を抜け、田舎町のそれに変わってきた。
ぱらぱらと、「田舎の人々の暮らし」が、垣間見れるようになってきた。
マフィアのボスみたいな洋服・振る舞いのヒトは、
人っ子一人、見かけない…。
みんな、とても質素な格好で、カラダの線はほっそりしていて、
髪の毛は、男性も女性もこざっぱりしていた。
何より、
道行く人々の、瞳のクリクリさと笑顔が、素晴らしかった。
時折、車窓から顔を出している僕に気付き、
愛想よく、手を振ってくれた。
僕は、カンボジア人の国民性が、
サッパリ、定義出来なくなってきた。
迷彩服の天使…
マフィアのボス…
クリクリの瞳…
いったい全体、
人間では無い生物の文明を、
垣間見ているような気さえ、してきた…。
車はやがて、停まった。
大きな広場のような場所だった。
停車した車のすぐ前には、
自販機くらいの背格好の、大きな鉄の箱があった。
どうやらココは、
質素で簡素な、ガソリン・スタンドのようだった。
車の給油の傍ら、
乗組員たちも、小休止を挟むようだった。
でも、
マフィアのボスは、特に何も説明せずに降りていったから、
しばらくは、どうしてイイのか、何の時間なのか、わからなかった…(笑)
一向に走り出す気配がナイから、僕も、車を降りることにしたよ。
広場の奥には、大きなガレージがしつらえてあった。
そこを中心に、ぱらぱらと、ヒトの姿があった。
今さっき車窓から見たような、フツウの人たちだった。
毛の無い不恰好なニワトリが、何羽か居て、
それを、オムツが取れたばかりくらいの小さな子どもが、
1人でキャーキャーと追いかけ回していた。
…「追いかけ回している」というより、「翻弄されている」というカンジだけど(笑)
それがあんまりにも微笑ましい光景だったから、
僕の顔からも、久しぶりに、笑みがこぼれた♪
僕は、カメラを構えて、
あちこちの風景や表情を、のぞき込んだ。
…見ればみるほど、純朴な表情のヒトが多かった…!!
ガレージの手前には、
半畳くらいのサイズの、小さな東屋があった。
その屋根の下では、
2人の女性が、大きな寸胴鍋を、ぐるぐるとかき回していた。
甘い香りが、漂っていた。
その様子を興味深げに眺めていると、不意に、声を掛けられた。
「お前、リエル(カンボジアの通貨)は持ってるか?」
声の主は、マフィアのボスだった!!
僕は、反射的に萎縮し、けれども、
「ドルしか持っていない」と、キッパリと言った。
すると、彼は、
「仕方ねぇなぁ」というような表情を浮かべたかと思うと、
2人の女性に近寄っていき、紙幣をいくらか、手渡した。
女性は彼に、寸胴鍋の中身を1杯、手渡した。
次の瞬間…、
こともあろうか、マフィアのボスは、そのお椀を、僕に差し出した!!
「食えよ♪」
その瞳は、周囲の人たちと同様に、澄み切っているように…感じられた…!?
僕は、警戒心を解かずに、
「いや、でも、リエル・マネーは、持っていないんだ。」
と、きっぱりと、断った。
彼は、予想外のことを、口にした。
「ハッハッハ!
オレが払っておいたから、オマエは払わなくてイイんだよ♪」
「…!?」
彼が、僕の首元までお椀を差し出すので、
僕は反射的に、それを受け取ってしまった。
「食えよ♪」
首をクイっと傾げて、食べるよう、促してきた。
僕は、言われるままに、それを食べてみた…。
…正直、
決して、美味しくはなかった(笑)
けれども、
「何のコビも売っていない、とても純朴な味の食べ物だ」
と、一瞬で、察知した!!
美味しくはなくても、
こうした、「現地の味」を垣間見れたことを、とても嬉しく感じた♪
マフィアのボスは、
「どうだ?」と、興味津々な顔で、尋ねてきた。
…僕は、返答に困って、
はにかみ顔で、ゆっくり首を傾げて見せた。
その表情が、「キミョウな味だ」と物語っていることを、
マフィアのボスも2人の女性も、理解して、
それぞれ、ケラケラと笑った!!
僕も、3人の笑みに釣られて、ハデに照れ笑いを返した…!!
マフィアのボスは、僕とのやりとりに満足すると、
他の人たちのところへ、消えていってしまった…。
僕は、その、おしるこみたいな食べ物を、
3口ほど食すると、耐え切れなくなって…(笑)
止むなく、お椀ごと、女性に返してしまった。
2人とも、イヤな顔一つせず受け取り、微笑んでいた…。
…!?
僕は、サッパリ、イミがわからなくなってきた!!
けれども、
すっかり澄み切った青空の下で、カンボジア人たちの笑顔を見ていると、
「悪どさ」なんて要素は、さっぱり、感じられなかった!!
不意に、
僕は、自分の過ちに、気が付いた!!!
「人造人間たちの猛攻」やドシャ降りの雨で、ボロボロになっていた僕は、
国境をくぐった後の、「カンボジア側」の人たちのことまで、
「否定的な色メガネ」を通して、眺めてしまっていたんだ…!!
たとえば、
マフィアのボスは、僕のことを、「You」としか、呼んでいない。
それを、「オマエ」と和訳するか、「キミ」と和訳するかは、
完全に、「僕の感性」に委ねられているんだよ。
僕は、その時の状況や、彼のいでたちから、勝手に、
「You」という単語を、「オマエというニュアンス」で、読み取っちゃっていた…!!
…全てのことが、それと同じだった!!
たとえば、
僕に雨合羽を売った家族は、あくまで、
「家族そろって、満面の笑顔だった」というだけさ!!
それを、「あざけり笑い」と解釈してしまったのは、
あくまで、「僕自身」に過ぎなかった!!
後になって思い返してみれば、
国境を越えた「カンボジア側」の人たちの瞳は、
人造人間たちの冷たいそれとは、明らかに、違っていた。
けれども、あの時の僕は、
出国ゲートをまたいだところから、人種がカンボジア人に切り替わったことさえ、
理解していなかったのだ!
…僕は、この一件で、
「人間の弱いココロが誘発する、偏見の恐ろしさ」
を、まざまざと痛感した!!!
HPが1ケタの「瀕死状態」の時に、状況を的確に判断出来るなどと、
自分を過信しちゃ、いけないんだ(笑)
「陸路で国境を越える」という作業は、
多かれ少なかれ、
どの地域でも、骨折りな作業になる。ヨーロッパ以外は、ね。
けれども、
この時の「国境越え」ほど、
デンジャーで衝撃的で、有意義だったケースは、
それ以降、1度も、ナイ!!!
同じ、「カンボジアの国境」でも、
翌年、タイからカンボジアへとまたいだ時は、
拍子抜けするほどアッサリと済んでしまったのを、覚えているよ(笑)
「タイ―カンボジア」のルートは、
利用者も何倍も多く、ツアーガイドも、もっと過保護に世話してくれるのさ。
僕が、生まれて初めての海外放浪において、
ベトナム経由のルートを選んだのは、
「シゲキ的な旅がしたい!!」と望む僕にとって、
まことにドンピシャなチョイスだったんだよ(笑)
…キミがもし、僕のマネをして、
ベトナムからカンボジアへ国境越えをするとしても、
絶対に、絶対に、
僕よりもシビアな目に遭うことはナイから、安心しておくれ♪
※今とはなっては、このルートの国境も、もう快適に簡単に整備されたようです♪
『永遠の楽園』



