54 「永遠の楽園」への招待状
「…あれ?コッチでイイの?
これって、遺跡に向かってるんじゃない?
僕が買ったのは、『明日から』3日間有効のパスだよ?」
「アハハハ!コッチで間違っていないよ♪
実はね、『明日のパスポート』を持っているカスタマーは、
『前日の4時半以降』なら、遺跡に入れるんだ♪
だから、このタイミングで行けば、
1日多く、アンコールワットに入れるんだよ♪」
「うおーーー!!!
なんてワンダフルな作戦なんだ!!!」
僕は、ナカタの計らいに、エラく感動してしまった♪
だんだん、胸がドキドキしてきた…
ついに、憧れのアンコールワットと、ご対面するときが、来た…
パスポート・センターから5分も走ると、
やがてバイクは、広いお堀と平行した道を、走りはじめた。
「ぱるこ!アレが、アンコールワットだよ♪」
彼が指差す方向に見えたのは、
バカデカいお堀に囲まれた、灰色の石壁だった!!!
石壁の端から端を、
1ヶ所の視点から視認することは、出来なかった!!
…ムリもナイさ!
アンコールワットの外壁は、一辺、1500mもあるのだから!!
それを取り囲むお堀も、幅が150mほども、あるんだ!!
バイクは、一般的な入り口・西大門のそばに停まった。
…「そば」と言っても、お堀の幅が150mもあるのだから、
西大門…つまり、「アンコールワットの玄関」に達するまでに、
150mも、歩く必要があった(笑)
ナカタは、パスポートは持っていないので、
お堀の外側で、待機している必要があった。
「オレはココら辺で待ってるから、
時間ギリギリまで、エンジョイしておいで♪」
そう言って、僕の背中を見送ってくれた。
僕は、1人、ゆっくりと、
西大門へ続く石畳の参道を、歩いた。
早く中に入って、寺院本体を眺めたかったけれど、
それでも、ゆっくり歩いた。
…一瞬一瞬を、大切にしたかった…
5分も歩いてお堀を渡り切ると、
ようやく、西大門をくぐることが出来た。
…それでもまだ、
本堂(寺院本体)まで、200m以上も歩く必要があった(笑)
「なんちゅー広さだよっ!!」
僕は、ツッコまずには居られなかった(笑)
敷地の中に入ってみると、
真っ直ぐ本堂に向かうキモチは、すぐに、失せた(笑)
興味をそそられるモノが、広大な前庭に、溢れかえっていたからさ!!
まず、前庭を埋め尽くす芝生のあちこちには、
たくさんの馬が、のんびりウロついていた。
だから、あっちこっちに馬のフンが転がっていた(笑)
けれども、僕は、
真っ直ぐ石畳を歩かずに、芝生へと足を踏み出した。
馬に近づいてみると、
たいていどの馬も、スタッフが縄で繋いでいた。
観光客を馬に乗せ、記念撮影をしているようだった。
前庭にも、立派な遺跡があった。
「経蔵」と呼ばれるものであることを、後から知った。
この立派な経蔵が、あくまで「前座」に過ぎないというのが、恐ろしかった(笑)
経蔵を過ぎると、大きな溜め池があった。
溜め池では、地元の子どもたちが、おちんちん丸出しで、
ワイワイと水浴びを楽しんでいた♪
その無邪気な様子を見ているだけで、僕までもが、楽しくなった♪
また、溜め池の前には、カメラを構える観光客が、大勢居た。
なぜかというと、
ある角度から溜め池をのぞくと、本堂がキレイに水面に映って、
「逆さ富士」ならぬ、「逆さアンコールワット」が撮れるからだった♪
僕も、1枚チャレンジしてみたよ。
再び、中央を走る石畳に戻ってくると、
普段着のジモティたちに、たくさん声を掛けられた。
「ガイド?1ダラー!」「ガイド?1ダラー!」
と、みんな、オンナジ言葉を口にしていた(笑)
実は、
僕は、基本的に、「歩く」ということがニガテだった。
…というのも、
中学校に入ってからの僕は、
完全に、「文化系」にシフト・チェンジしていたからさ。
あんまりカラダを動かさないから、
普段は、10分も歩くと、すぐにバテちゃうんだ。
この時すでに、
バイクを降りて歩き始めてから、30分以上も経過していた!
なのに、僕の心身は、ほとんど疲れを感じていなかった…!!
どうしてだと思う!?
この、アンコールワットという場所には、
確かに、「フシギなチカラ」があった。
…論理的に言うならば、
たくさんの樹木が、酸素を豊富に提供したり、空気を浄化してくれているし、
「龍脈」という風の通り道を、上手く計算して造られているから、
常に涼しい風が吹き、汗を乾かし、肌をくすぐってくれるので、
疲労回復が早くなるんだ、と言える。
でも、この、アンコールワットという場所には、
「フシギなチカラ」以上に、「フシギな魅力」が在った!!!
…フツウ、
「文章を書く人間」というのは、
「自分が感動した事象を、いかに巧みに表現するか」
という実力を、誇示したがるモンだろう。
僕も、それなりに、言葉をヒネる自信は、ある。
でも、他でもなく、「アンコールワットという場所のフシギな魅力」を、
みんなに伝える作業においては、
僕は、あっさりと、白旗を挙げたいんだ(笑)
「コウサーン!!」ってなモンさ♪
…モチロン、
「フシギな魅力」についても、「フシギなチカラ」と同じように、
「樹木のグリーンと遺跡のグレーのコントラストが、絶妙だ」とかナントカ、
論理的な講釈を、幾つも垂れることは、出来るよ?
でも、それらはタブン、
アンコールワットの魅力の「本質」ではナイし、
また、魅力の「全体像」でも、ナイんだよ!!!
アンコールワットの魅力ってのは、
五感全てと、第六感への、
一瞬一瞬、刻々と変化する、無数のシゲキの、総合演出なんだ。
…イミ、ワカンナイだろう??
イミ、ワカンナイんだよ(笑)
どんなにアタマのイイ学者を、大勢連れてきたって、
アタマで考えようとするうちは、
左脳だろうと、右脳だろうと、理解することは、不可能なんだ(笑)
…キミは、もしかしたら、
「この物語を読んだら、アンコールワットの魅力を理解出来るカモ」
って、思っていたかも、しれないね?
申し訳ナイけれど、それは、ムリなんだよ(笑)
ソコが、「文学の限界点」なんだ。
「文学」ってのはさ、
「珍しい事象を、多くのヒトに広める役割」を、持っては、いるよ?
けれどもさ、
文学が伝えられるのは、それらの事象の、
「ほんのさわり」だけなんだよ(笑)
文学は、何かを「知る」ための手段には、なり得ても、
何かを「理解する」手段には、なり得ないんだ。
…じゃぁ、
「理解する」には、どうしたらイイと思う?
映画を見れば、もっと満足出来るかな??
…違うんだよ!!!
何かを「理解する」ためには、
自分の心身と、時間と、お金と、情熱を費やして、
「自ら体験する」しか、ナイのさ♪
…ウソだと思うかい?
じゃぁ、キミ、
「感動の超大作!!」ってフレコミの映画や小説を、何本見た?
100本も見たのに、まだ、感動ってモンに飢えてるだろ??
そりゃ、つまり、
「映画や小説では、本当の感動なんて、得られやしない」
ってコトなのさ(笑)
商業者たちは、
「コレは感動だ!!」って、必死に煽っているけれど、
それはぜーんぶ、デマカセさ(笑)
他人の体験や創作に、いっくらカネを注ぎ込んでも、
キミ自身は、「本当の感動」は、得られやしないんだよ(笑)
その真実に気付いたヒトは、
映画やらドラマやら小説やらには、
てんで、興味が失くなっちゃうモンさ!!
…んで、どうすると思う??
自ら、映画の主人公となり、
自ら、ドラマの主人公となり、
自ら、小説の主人公に、なるんだよ♪
…物語の主人公のような、
感動的な、個性的な、ユーモラスな人生を、
自ら選び、生き抜くように、なるんだよ♪
…すると、
小説家や映画監督など、芸術的メッセンジャーたちの、
「本当の仕事」っていうのは、
消費者の1人ひとりを、
「主人公側の人間に、引っ張り上げてやること」なのさ!!!
「私が、皆さんを感動させてあげます!!」
って、「甘やかしている」うちは、
そのクリエイターもまた、
「本当の感動」を理解しては、居ないんだ。
んで、「商業者の奴隷」なんだよ(笑)
…わかるかなぁ?
ワカラナイんだよ(笑)
キミが、アタマで考えてるウチは、
ぜーーーーーーったいに、ワカラナイのさ(笑)
僕の使命は…この物語の役割は…、
「キミを感動させること」でもなければ
「アンコールワットの魅力を理解させること」でも、ナイのさ。
「キミ自身を、旅立たせること」なんだよ♪
キミが、
(僕ほどではナイにしても、)たくさんの困難や葛藤を乗り越えて、
たくさんのユーモアや奉仕に背中を押されて、
「自らのチカラ」でココまで来ないと、
理解出来ないコトが、たくさん、あるのさ!!!
…飛行機ばっかり乗り継いで、
チョチョイとココにやって来たって、
アンコールワットの魅力は、ワカンナイってコトだよ??
…以前、
「僕の旅程は、10日間」って書いたよね?
今まだ、4日目さ。
まだ、半分にも達してナイっていうのに、
なんだかもう、エンディング・テーマが聞こえてきそうな気配さ(笑)
…ピンポーン♪
その通りなんだよ(笑)
僕は、キミに、
旅やアンコールワットってモンの魅力の、
「ほんのさわり」しか、伝えることは、出来ないのさ♪
あぁ、そうそう!
今まで、ハッキリは言わなかったけどさ?
アンコールワットの半径10km圏には、
世界トップクラスの魅力を持った遺跡が、幾つも、ゴロゴロしてるよ(笑)
アンコールワットのパスポートがあれば、
それらのほとんども、入場が可能なんだ♪
最低でも丸3日間は、遺跡観光の時間を確保して、
幾つもの遺跡を…
ラピュタの空中庭園みたいな遺跡や、ドラクエのダンジョンみたいな遺跡を…
そのカラダ全体で、探検しまくってごらん♪
…そして、キミもまた、
写真や文章やなんかを駆使して、
友人知人に…見知らぬネット閲覧者たちに…
アンコール遺跡群や、旅ってモンの素晴らしさを、
垣間見せてやっておくれよ♪♪
そうして、世界70億の人々が、
みーんな勇気ある旅人になって、
「自ら感動的な人生を歩む勇者」になったなら、
この惑星は、まるごと、「永遠の楽園」になるだろうさ♪
その楽園をこしらえるのは、
他でもなく「キミ自身」の、勇気ある一歩なんだよ♪
…さぁて、
貯金を下ろして、旅行代理店に駆け込むかい?
それとも、
次の「感動の超大作!!」を、探しに行くかい?
2012/06/18 完筆
『永遠の楽園』