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エピソード16 『トランク1つで生きていく』

「万屋」で生活していると、ときどき誰かと仲良くなることがある。

宿泊客の中には長期滞在の人もいて、なぜか私の名前を覚えていたりもする。


「ハナちゃんは、毎日掃除ばっかりしてるね?

 若いのに掃除を嫌がらない女は、イイ女なんだよ。」

私ははっと振り返った。

リビングのちゃぶ台で、中年の、小太りの男の人がパソコンをやっている。

「私、掃除がお仕事なんです。」

「そうか。それでも偉いよ。掃除を仕事に選ぶんだから。」

「ごめんなさい。私、掃除を選んだってわけじゃないんです。

 寝るところ提供してもらうためには、掃除する必要があったんです。」

「あれ?キミもノマドなの?」

「ノマド?」」また新しい単語が出てきた。

「ノマドワーカー。違うの?

 オレはノマドやってんのよ。

 フリーランスでパソコン仕事しながら、あっちこっちで暮らしてんの。」

「ウェブライターですか?」

「いや、どっちかっつうとウェブ構築だな。ホームページ作成だよ。

 記事書くこともあるけどね。」

「私、ウェブライターやっています。」

「フリーだろ?」

「はい。」

「やっぱり!ノマドじゃんか。キミみたいのをノマドっていうんだ。」

「そうなんですか。」

「フリーランサーにしちゃ若いな。

 キミ年いくつよ?まだ30いってないよな?」

「二十歳です。」

「若っ!想像以上に若いじゃんかよ!

 なんでその若さでノマドやってんのよ?」

「私、熊本地震で家失くしたんです。

 それで転々としてるんです。」

「そうか。たくましいのな。いいね、ハナちゃん。

 京都にずっと暮らすってわけじゃないのか。」

「わかりません。そうなるかもしれないけど、

 いずれは違うところに行くんじゃないかなって、思ってます。

 まだ今はウェブライターで月収15万稼げないので、

 まだ今は出れないと思ってます。」

「そう。ちゃんと考えてんのな。

 15万稼げないのか。10万は?」

「10万は稼げるかな。がんばれば。」

「そう?じゃぁ移れるよ。移れるとこある。」

「そうなんですか?」

「うん。沖縄は?興味ないの?」

「沖縄!いいですね!」

「なんだ!じゃぁ沖縄行けば?」

「沖縄なら10万で暮らせるんですか?」

「暮らせるよ。キミ、ノマドだろ?

 ドミトリー、大丈夫?相部屋でも平気?」

「平気です。今、ここの相部屋で暮らしてます。」

「じゃぁいけるよ。

 沖縄のゲストハウスって、京都よりも安いんだ。那覇ならね。

 1泊1,000円でも泊まれるから、家賃3万だよ。だったら10万で暮らせるでしょ?」

「…暮らせるかも?」


ちょうど良いタイミングだったんだと思う。

京都に来たばかりの私なら、蹴っていた話だろう。

でも最近は、京都の観光にも飽きてきていたし、

冬の訪れに憂鬱を感じているところでもあったのです。

沖縄だったら冬でも寒くないし、新しい景色が見られる。沖縄、行ったことないし。


12月の初旬、紅葉に染まる京都の観光をひととおり終えてから、

私はついに、新天地沖縄へと旅立った。

コウセイくんとの別れは寂しかったけれど、きっとまた会える。

会おうと思えば誰にだって、また会えると思う。今の私なら。



『トランク1つで生きていく』

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