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エピソード3 『トランク1つで生きていく』

「ちょっとあなた、それ何て書いてあるの?山口とかって?」

良かった!女性だ!!

くねくねのソバージュに大きなサングラス。勝気なしゃべり方をしているけど、

たしかに女性だ!

女性はサングラスを取って目を細め、口をぽかんと開けて、

私とスケッチブックを交互に凝視している。

「あ、あの。ヒッチハイクしようと思って…。」私はドギマギと答える。

「あっはははは!それで山口?」

「いえ!県外か、九州を出られれば。

 何でもいいんです。被害少ないのところで…」

「落ち着きなさいよ。わかったからさ。」

「あ、はい。」

落ち着いてもいられなかったのだ。今の今まで、襲われるかもしれなかったんだから。

私は胸に手を当てて、大きく深呼吸をした。

「あなた女性よね?いいわ。乗っていきなさいよ!」

「え、いいんですか!?」

私はパーカーのフードをはぎ取って、胸までのロングヘアを見せつけながら言った。

「オトコならためらうけどね。女ならいいわよ。

 旅しようじゃない?一緒に。」

私は助手席側に周り、車に乗り込んだ。トランクはしっかりひざに抱える。



「いつもはもう寝てる時間だけどね。今日はこのまま飛ばすわよ?いい?」

フロントミラー越しに私の顔を伺いながら、彼女は言う。

「えぇっと。何から聞けばいいでしょうか…

 まず、お名前は?私はハナといいます。」

「ハナちゃんね?アタシ、愛子よ。アイコ。」

「アイコさん。ありがとうございました!」

「いいのよ。ついでなんだもの。逆方向なら乗せてないわ。」

「それで、あの。『旅しよう』とか言ってましたけど?」

愛子さんは、車のラジオを消してしまった。会話の邪魔だと感じたらしい。

「そうよ。あなた、『避難』でしょ?アタシ、『旅』なのよ。

 まぁ『避難』でもあるけど。でも別に、特別なことじゃないワケ。」

「ええっと…?」

「あっはは!意味わかんないわよねぇ、こんなんじゃ。

 ごめんなさい?アタシ、言葉とかヘタでぇ。

 えぇっと、何て言えばいいの?

 つまりアタシ、熊本に住んでるわけじゃないのよ、もともと。

 墓参りしに、たまたま2~3日前から熊本に来てたってワケ。」

「じゃぁ、『帰る』っていうことですね?

 お住まいは、どこなんですか?」


「アタシの住まい?

 あっはは。どこでもないの。」

「え!?」

「どこでもないのよ。実家は横浜だけどね。ぜんぜん住んでないわ。」

「どういうことですか?」

「車で、暮らしてんのよ!この子に。」愛子さんは、ハンドルをバンバンと叩く。

「車で!?」

「『車中泊』ってコトバ、聞いたことあるでしょ?

 それの延長線上みたいなもんね。」

「車中泊って!本気なんですか?くつろげないですよね?」

「だからほら、バンなわけよ。ワンボックスっていうの?」またハンドルをバンバン叩く。

愛子さんは続ける。

「空間が広いでしょ?うしろ、シート倒したらけっこう広いのよ。

 けっこう寝れるし、家財道具も積めるし。」

愛子さんは、促すように後部座席側を指さす。私は振り返る。

本当だ。半分にはマットが敷いてあり、半分には家財道具が積んである。

「キャンピングカーほどすごくはないけどね。高いから、アレは。

 でもキャンピングカーみたいなもんよ。工夫すれば。」

「工夫すれば?」

「水周りとか、普通の車じゃカバーできないでしょ?

 だったら寝泊りする場所を、水のそばにすりゃいいのよ。

 サービスエリアとかさ。川のそばとか。

 最低限トイレがあればいいから、コンビニのそばで寝ることもあるわ。

 田舎だと、それがカンタンなのよ。

 都会じゃムリね。横浜もムリ。車停めらんないから。」

「へぇ。」なんとなく、理解できてきた。



『トランク1つで生きていく』

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