エピソード8
それからというもの、私は頭がぼーっとしちゃうの。
クロワッサンが幾つか数えられないし、お釣りがいくらか数えられないわ。
そんなの誰よりも得意なはずだったのに。
本を読んでも、ぜんぜん頭に入らないの。
そうよ。ポストカードのことばっかり考えちゃうの。
ううん、違うわ。彼のことばっかり考えちゃうの。
…これが、恋なの!?
ううん。違うわ。
恋なんて、仕事に夢中になっていれば忘れていられるものよ。みんなそう言ってる。
これは恋じゃないの。
いいえ、恋よ。強がってもしょうがないわ。
私、彼のことが気になってる。私みたいな考えしてる、彼のこと。レオのこと。
恋なんだけど、ただの恋じゃないのよ。特別な恋。
「運命の人」なんだわ。やっぱり。
私はまた、ウィリアムスさんに相談しようと思ったんだけど、
リリルが止めるの。「ダメ」って。「人には相談しないほうがいい」って。
「他人に恋の相談をしても、月並みで無難な答えしかかえってこないものなのよ。
恋の相談を他人にする人は、その時点で死んでしまうの。
死んだのと同じような、カラッポの人生になっちゃうの。
…ウィリアムスさんの場合、普通じゃないから気の利いたアドバイスをくれるだろうけど、
でもウィリアムスさんに頼り過ぎないほうがいいわ。」って。リリルは言うの。
「じゃぁ、リリルが助けてくれる?」って聞いたら、それもダメって言うの。
普段はこういうとき、妖精たちが助けるものだけど、
ミシェルの場合はダメだっていうのよ。「自分で考えなさい」って。
どうしよう…。
『ミシェル2 -世界の果て-』