episode34 『王と悟り』
episode34
魔法学校を発ち、新しい地に足を踏み入れる。
ひょっとしてまた魔物が強くなるのかな?と洞窟での苦戦を思い出して緊張したが、そんなことはなかった。つちわらしが出て、いっかくうさぎが出る。それが集団で出現しても、チェーンクロスの広範囲な攻撃によってサクサクと討伐は進む。
食べ物の手持ちがなく、野宿の準備をしていないがゆえの困難はあった。道は過酷ではないが距離は長い。
こちらへ向かって馬車が走っていくのを見かける。たとえばカルベローナ魔法学校に入学する子供は、この先にある街から馬車を雇ってそこにゆくのだろう。
3日間の汗を流して、ソロはサマンオサという大きな街に到着した。海が近く、また新しい匂いがする。

大きな街だ。街の中心は丘のように盛り上がっていて、てっぺんに城が見える。城下町であるが、城壁街ではない。あまりに街が大きすぎて、壁で囲うことが困難なのだろう。色々な形の街があるものだ。
「余所者か」と誰かが声を掛けてきたりもしない。もはや人が多すぎて、すれ違う人が多すぎて、およそすべての他者が余所者に見えているのだろう。だからいちいち声を掛けもしない。
人の数が多いだけでなく、叫んだりなんだりする人も多くて騒がしい。商売人の掛け声が飛び交い、様々な店が軒を連ねる。地べたにも御座を敷いて、よくわからない商売をしている。
しかしそれらを眺めて品定めする人は少なくなく、需要と共有は一致しているようだ。
戦士っぽい人、魔法使いっぽい人、いわゆる冒険者の数も多い。とても多い。
武器屋や防具屋の数も多く、また普通の服飾の店にも《皮の鎧》程度の簡素な装備品が並んでいたりする。
教会も多く、神父のような服を着た男女の姿もよく見かける。
この街にはすべてがある!と誇らしげに語っているようだ。
街の端からほどなくして、噴水を囲んだ広場がある。
立派な剣士の銅像が建てられている。

ソロは近寄ってみる。
銅像の土台には、石碑が埋め込まれている。
そろそろ仲間が欲しいか?
魔法使いは高慢ちきなのが玉に瑕(きず)である。
僧侶は意気地なしなのが玉に瑕である。
戦士は乱暴すぎるのが玉に瑕である。
勇者はカッコ付けたがるのが玉に瑕である。
ルイーダの酒場
ソ「ふうん」
勇者というのが、この街にはいるのだろうか。
この像は戦士ではなく、勇者を表しているのだろうか。
魔王討伐のカギを、このサマンオサの街が握っているのかもしれないな。
さて、安宿はどこだろうか。賑わう通りを抜けたところだろうが、それにしても広すぎて埒が明かない。誰かに尋ねるべきだな。しかし行き交う人は皆忙しそうで、他人からの声掛けを煙たがっている雰囲気がある。
そうこうしている間に歩は進む。
印象的な三叉路に差し掛かると、その角に古い建物がある。バーの看板が掛かっている。
普段はバーなど興味のないソロだ。しかし看板の文字を見て立ち止まる。「ルイーダの酒場」。
ソ「あれ?どこかで聞いた名前だな」そうだ、勇者像の石碑の文字だ。
何か冒険者に関連するのだろうか?ちょっと入ってみよう。
入口は地下にあるらしく、階段を降りていく。
カランカラン。暗い店内に入る。

まだ昼間だがまばらに人がいる。
「はいいらっしゃい」女の人がカウンターから声を掛けてくる。
ソ「ここはルイーダの酒場っていうところなんですか?」
女「えぇそうよ。今日はマティーニがお得なの。1杯飲んでいく?」
ソ「いえ、お酒は結構なんです。
勇者が何か、関係しているんですか?」
女「そうよ。勇者が冒険の仲間を見つけるための憩いの場なの」
ソ「あのお客さんたちの中に勇者さんがいるんですか?」
女「彼らはまだ、勇者の卵ね」
ソ「へぇ。
あのう、3ゴールドくらいで泊まれる安宿はどこかわかりませんか?」この人なら知ってそうだ。良い相手を選んだな、とソロは思った。が・・・
女「えぇっと、お酒飲まないのね?
悪いけどこっちも忙しいから、本業に関係ないことは他を当たってくれる?」
ソ「あぁすみません!」
ちょっとした質問にも答えてくれないのか。忙しそうにも見えないが・・・。
女はソロが視線を外すと、床にいるネコにエサをやるのだった。甲斐甲斐しく魚の骨を取ってほぐしてやっている。人間の世話よりネコの世話が重要なのか。
カウンターの女からは離れる。が店を出ずに、フロアまで踏み出してみる。
冒険者風情の者たちが酒を飲み談笑している。耳を傾けてみる。
男「あの新しい貼り紙、割が良さそうだぜ!魔物と戦わずに日給500ゴールドだってよ!腕っぷし鍛えててよかったよなぁ~。はっはっは!」
これが冒険者の会話なのか?よくわからない。
女「えぇー!マーディラスまでの用心棒なら絶対戦士より商人のほうがいいってば!
商人なら馬車持ってるから楽ちんじゃなーい」
魔法使いっぽい女と僧侶っぽい女はそんな話をしている。カルベローナで散々クギを刺されていたことは、あっさりと無視されているのだとわかった。
女「ちょっと、あなたお酒飲むの?飲まないの?」カウンターの女は注文せずに滞在する客を煙たがっている。
ソ「あ、ごめんなさい!」ソロはもう出てくることにした。
ネコは一銭のカネも払わずに、サバの猫まんまやらチーかまやらを得ているようだが。裕福な街の人間は、人にモノを与えず動物に惜しみなくモノを与える。
強そうな人はみんなカッコいい、魔法を使える人はみんなすごい、冒険している人はみんな先輩、そんなふうに敬意を持っていたが、どうやらそういうものでもないようだ。自分も少しは強くなった、とも言えるが、強さの問題ではなく精神性の問題として、尊敬に値しない人もいる。
大きな街は華やかで素晴らしい、とも言えない。少なくともソロにとっては、このゲンキンでせっかちな街は性に合わないと感じた。
とはいえ、カレンとは違う街を何にせよ楽しみ、体感していきたい気持ちがある。何か上手くこの国の個性と交われればいいのだが。
選り好みしていても的確な情報をくれる善人はいないようなので、適当に道行く冒険者に安宿を尋ねた。2人目に聞いた戦士が、3ゴールドの安い宿はないが7ゴールドの相部屋ならある、と教えてくれた。この街は物価が高く、最安の相部屋でも7ゴールドするのだ。



