top of page

episode74 『王と悟り』

12 時間前
読了時間: 7分

episode74

ゼシカとセーニャ5年生
ゼシカとセーニャ5年生 挿絵by生成AI

場面は大きく変わり、時代は大きく変わる。

今より約5年前、場所はソロの妹ゼシカとセーニャの女学校。その体育館で生徒総会が行われていた。全校生徒が集まり、教員たちが学校の方針やその変更事項などを伝える。


生徒総会は終盤に差し掛かった。教頭先生は締めに入る。

教「・・・というわけで来年度も概ね現状維持。歴史あり由緒ある桜が丘女学院の秩序は、平和に保たれるだろう。

 では最後に、誰か学校に提案などしたい者はあるか?

 顔と名札をしっかり見せつつ、話したまえ」

教頭は全校生徒に、学校の不満や提案などないか、促したのだった。民主主義が採用されている、という体裁を保つために。


シ――――――――ン・・・


生徒たちは何も反応を示さなかった。


教「何もないな。宜しい。

 ではこれにて閉幕を・・・」


「はい!意見があります!」

ためらいを伴いながらも、挙がる1つの小さな手があった。

教「なぬ?そうか。

 では教壇に参りなさい」

教頭は挙手した生徒に、全校生徒の前に出てくるようにと促した。


そろそろそろ。

出てきたのは、ゼシカなのだった。


教頭は教壇の前でゼシカを出迎える。

ゼシカを顔からつま先まで、全身じろりと見つめまわす。

教「君は、誰だね?」威圧をこめて名を尋ねた。

「面倒臭いことをやらかすのは、どこのどいつだ?」という意味だ。その顔と名を覚えておくために。


ゼ「ご、5年2組のゼシカ・ムーランです」

教「ふむ。5年2組のゼシカ君。なんだね?

 マイクに向かって意見を述べたまえ」


ごく。ゼシカはツバを飲んだ。緊張しているのだ。

ゼ「あの、あのう・・・。

 制服を廃止すべきだと思います!」

教「なんだって!?」


ざわざわ!

ざわざわ!

生徒たちと教師たちは別の思惑から、ざわつき立てるのだった。


ゼ「こ、この学校は民主主義ですか?」

教「そうだが?だからこうして毎年、生徒総会に1日を割いておる」

ゼ「で、で、でも!

 生徒は誰一人、制服を望んでいません。可愛い服を着たいと思っています」

教「そんな投書は目安箱に1つも入っていないが?

 去年の生徒総会でも誰も言わなかったがね?」

ゼ「で、でも。

 私の友達はみんな、制服なんてイヤって言ってます。少なくとも5年生のコたちは結構大勢そう言ってます」

教「制服を辞めたいだと?

 服装を自由化すると、風気が荒れる。それなのに自由化したいと?」

ゼ「で、でも、みんな頭の良い子たちです。不良学校とは違います。

 こ、この学校は、民主主義なんですよね?」

教「ふぅむ。

 そうか。では気が済むまでやらせてやろう。

 では諸君!」

教頭は全校生徒に向いて叫んだ。

教「諸君!

 では分別のある4年生以上の皆に、投票権を与える。

 この中で、校則を覆して制服着用を辞めたい、私服登校がいい、という者は、声を上げて手を挙げなさい」


わぁ・・・!生徒たちがにわかにざわめき立った。


教「ただし!

 名札を隠さずに見せながら!

 その顔を隠さずに見せながら!

 では挙手を!」


シ――――――――ン・・・


1つの手も、挙がりはしないのだった。


ゼ「どうして・・・!?」ゼシカは悲壮になった。


教「5年2組のゼシカ君といったかな。

 君は大嘘付きのようだ。

 1つも手は挙がらない。1人も賛同者はいない。

 えぇと、5年生と言ったか?5年生の辺りからも1つも手は挙がっていないぞ?」


ゼ「そ、そんな・・・!」

ゼシカは裏切られた気分だった。皆、休み時間や放課後の私的な会話の中では「制服なんてくそくらえ!」「可愛いミニスカで登校したい!」と言っているのに!


なぜ生徒たちは手を挙げなかったのか?

「学校に謀反している、という印象を与えたくないから」だ。名札を見せ、顔を見せながらここで挙手することは、彼女たちの内申書に響く、と恐れたからだった。

そんなの、全員が手を挙げれば、いいやたった2割でも手を挙げれば、問題児扱いされることなどありはしないというのに、皆、保身のためにゼシカを血祭りに上げるのだった。


ゼ「う、うっうっうっ・・・」ゼシカは泣き始めた。

しかし教頭は冷徹な表情を崩さない。

教「はぁ。ゼシカ君。君は大嘘付きだ。

 君の将来は危ぶまれるよ、まったく」


ゼ「どうして・・・

 うっうっうっ・・・」

教「気が済んだろう?もう下がりなさ・・・」


「ちょっと待ってください!!!」

どこからか声がする!

拡声器で増幅された声が!


「なんだ」

「誰だ!?」

生徒たちはまたざわつく。


ドタドタドタ。ステージの裏手から鈍い音がする。

バタン。そして小さな扉が開く音。上には放送室があるのだった。

そこから出てきたのは・・・


涙を浮かべ息を切らす、セーニャだった。

ゼ「せ、セーニャ・・・!」


セ「わた、わた、わた・・・」

教「なんだね。君は?」


セ「わたしも、賛成です!

 制服ではなく私服のほうがいいと思っています!!」

セーニャは体育館のすべてに聞こえるように、大きな声で精一杯叫んだ。

教「そうか。2票」

セ「ねぇ!みんなもそうでしょう!?

 みんなだって私服に変えたいでしょう!?」

セーニャは体育館中に投げかけた。

しかし。


シ――――――――ン・・・


1つの手も、1つの声も挙がりはしないのだった。


セ「うっうっうっ・・・

 うわーーーーーん!!」

セーニャは珍しく大声で泣いた。普段は泣く子ではないのに。ゼシカよりも感情的にはならないはずのセーニャなのに。セーニャは、ゼシカを守れなかったことが、悲しかったのだ。自分のことよりも、ゼシカのことが悔しくて。

ゼ「セーニャ!」

ゼシカはセーニャに飛びついて、彼女をきつく抱きしめ、そして2人で泣いた。


教「馬鹿だな。1票が2票になったって何も変わりはしないのに」

教頭は2人に向かって呟いた。

そして全校生徒に向き直る。

教「生徒総会はこれにて閉会する。

 以上!」


いいや、違う。

セーニャは、たとえ1票だろうが、たとえ1人だろうが、「ゼシカに味方する者がいる」ということを表明したいのだった。表明せずにはいられないのだった。

そしてそれは、全く無意味な行動ではなかった!



教室に戻る。

ゼシカは気落ちせずに、友人たちに尋ねる。

ゼ「ねぇどうして手を挙げてくれなかったの?

 いつも制服イヤって言ってるのに!」

友「ごめぇんゼシカ。名札見せろとか言ってるし・・・」

友「でもさ?どうしてあんな、内心点下げるようなことするわけ?

 ああいうのは目安箱に、無記名でやればいいことじゃん」

ゼ「でも目安箱で通ったためしがないってセンパイ言ってたじゃん?」

友「そうだけど・・・」

友人たちは、「内申書に響くようなことをするな」と言いたいだけなのだった。



それから。

ゼシカとセーニャは孤立することになった。

「あの子たちと仲良くしていると内申書に響く」と、友人たちは恐れたのだった。


ゼシカとセーニャは、とても孤独だった。

ゼシカとセーニャは、でも独りではなかった。

ゼシカとセーニャは、とても孤独だった。

ゼシカとセーニャは、でも独りではなかった。



ゼシカは、心に100ポイントのダメージを受けた。

私たちの平和な社会の中で、肉体に10ポイントもの攻撃を喰らうことはあまりない。しかし心を痛める戦いは起こっている。友人の悪口や、上司の無神経など。

ゼシカは学友の薄情さによって心に100ポイントものダメージを受けた。しかしゼシカは死ななかった。心が、ある程度強いからだ。


しかし瀕死に陥った。彼女の心のHPは105しかないのだから。


しかしセーニャの慰めによってゼシカは九死に一生を得る。そしてみるみる回復を見せる。


そしてまたゼシカは、戦いに出る。演劇部の部長なんぞ引き受けて、またなにかと矢面に立ち、学友たちの無神経さを背負いこんだりする。

そうしてゼシカはまた強くなる。

心のHPが120くらいにはなっている。

そうして人は、強くなるのだ。私たちの社会でも、RPGと同じようなことが起こっている。人は社会に揉まれながら、心を鍛えていく。何かと戦うことによって、心を鍛えていく。


ゼシカは、心を鍛えた。だから戦えるのだ。泣きながらも、戦いきったのだ。

あなたは、どうだ?

RPGとは、単なる空想ではない。私たちの社会の比喩だ。


あなたに伝説の《いかずちの杖》でも授けたとして、あなたはいっかくうさぎよりも強い敵と戦う度胸があるのか?ないなら授けられるはずもないのだ。ないなら、偉そうなことを言わないことだ。

ないなら、みならいあくまを倒しに行かないことだ。

順序があるのだよ。まずは「旅行のための有給をください」と進言することから始めたらいい。


鬱やいじめから立ち直るというのは、こういうことだ。


bottom of page