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エピソード20 『全ての子供に教育を』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2022年3月14日
  • 読了時間: 3分

エピソード20

その日からは、プーマの家で寝泊りすることになった。

プーマの家も、もちろんロラン集落にある。

昨夜の民家と同じような造り・大きさの家だった。

しかし、昨夜の民家よりは物が多い。

古いものだが、ラジカセなんかも置いてあるし、扇風機もある。

壁には、タイのアイドルと思しき女性の、ポスターやカレンダーが貼ってある。

電灯も灯っている。電気はどこから引いているのかと思ったら、

屋根のところに、ごく小さなソーラーパネルが設置してある。


食事も、昨夜の家よりも豪勢だった。

野菜スープ、パン、芋は同じだが、それに玉子が付く。

青菜を絡めたスクランブル・エッグのようなものが、しょっちゅう出てくる。

また、コーラやビールが出てくることもある。

スナック菓子の袋は、そこら中に散乱している。



その日は、プーマについて周った。

昼過ぎの暑い時間には、隣の川で水浴びをした。風呂の代わりである。

もちろんお湯は出ないが、

日中の暖かい時間帯であれば、特に支障は無い。

女性たちも、Tシャツ姿で川に入る。

子供たちにとっては、風呂兼、プールだ。

小さな滝つぼがあり、威勢よくダイブしてはキャッキャとはしゃいでいる。


俺は、川の水に浸かりながら、素朴な疑問を尋ねた。

「なんで川のそばに住むの?」

「決まってるじゃないか!便利だからだよ。

 こうやって水浴びするのに、毎日1マイルも歩きたくないぜ。」

一理ある。

「生活には水が欠かせないし、農業にも必要だ。

 川のそばを選んで住むのは、自然なことなんじゃないか?」

もっともだ。

俺は、素朴な疑問をぶつける。

「でも、洪水が起きたらどうするの?即死じゃないかな?」

「はっはっは!洪水なんて起きないよ。

 ジャパンは地震や津波が酷いらしいけど、

 この辺の気候は、いたって穏やかさ。

 それに、洪水が起きたなら起きたで、死ねばいいのさ。はっはっは!」

「『死ねばいい』って…怖くないの?

 それに、民族全員が死んじゃったら、どうするんだい?

 こんな小さな村だもん。洪水があったら全滅だよ。」

 「別に、全滅したって良いんじゃない?

  民族の血を守り継ぐ必要性なんて、どこにもないさ。」

 「そうなの!?

 民族が滅びたら、大問題でしょ!?」

「そう?大した問題じゃないよ。

 だいたい、『民族』って何なんだ?

 たまたま、ある仲間たちが身を寄せ合って暮らし始めて、

 それが100人にも達したときに、

 どっかの誰かが、それを『民族』と呼ぶだけさ。どっかの他人が、さ。

 『ロレン族』なんて名づけたのは、どっかの学者であって、

 オレ達は別に、何の民族意識もないよ。『ロレン族』じゃなくて、『ここの住人』さ。

 昔からの暮らしを、そのままなんとなく繰り返してたら、

 その特徴を、誰かが『民族意識』とか名づけただけだろ。

 ほかの村の中には、 

 民族のアイデンティティに強くこだわるところもあるけど、

 それって大抵、観光地化した村さ。

 観光価値を高めるために、自分たちの習慣を誇張したがるんだよ。」

「ふーん。」

一理ある。



俺はプーマに、宗教について尋ねてみた。

どのような宗教観を持っているのだろう?

するとプーマは、俺を村の奥に連れていった。

集落からはやや離れた、あぜ道の奥に、

立派な木が立っている。乱雑に枝を伸ばす、お化けみたいな木だ。

「これが、オレたちの神だよ。トゥルシーっていうんだ。」

「木が、神様か。」

俺は、日本語でつぶやいた。

御神木と同じような概念だろうか。

彼は、それ以上は説明してくれなかった。

プーマは、宗教にはあまり興味が無いのかもしれない。



俺は、この日も早く寝た。

早く筋肉痛を治したい。


『全ての子供に教育を』

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