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第24節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』

  • 執筆者の写真: ・
  • 8月27日
  • 読了時間: 4分

第24節


翌日は、近郊の森へと魔物退治に繰り出した。

村の近くの平原には魔物はいないが、なるほど森の中まで踏み入ると、獰猛な生き物に遭遇する。奴らは人間を見ると襲いかかってくる性質があるようだ。

大ねずみが2匹あらわれた!

大ねずみ
大ねずみ

ユ「これくらい!」ユキはコーミズに出没する大ねずみを退治したことはないが、旅立ち直後の巨大魚や海上でのとつげきうおを見た後では、タヌキに似たねずみごときに震えたりはしなかった。

ザシュっ!ユキのヤリが相手に突き刺さる!

ギャーと唸るが致命傷ではないようで、勇ましく反撃してくる!ユキは素早く身をかわす!

そしてもう一度、もっと渾身の力を込めて大ねずみに突進する!

大ねずみをやっつけた!

ユ「ノア、君の番だ!」ユキは、目の前の怪物を殲滅することよりも「2人が戦えるようになること」が重要だとわかっていた。

ノ「ひぃぃぃ!」ノアは震えながら短剣を構える。

しかし、こちらに臨戦態勢を見せる大きなねずみになかなか襲いかかってはいけない。

ユ「がんばれ!」ユキはもどかしい思いを抱えながらも、手は出さずに踏みとどまる。

こ、こわい!

ノアの心理だ。攻撃されることが怖いし、自分とは異なる生き物を攻撃する、ということが怖い。血が噴き出ることが怖いし、相手が悶えるのを見ることも怖い。すると攻撃できずにおののいてしまうのだった。

ユ「がんばれ!乗り越えなくちゃ生きていけないぞ!」

わ、わかっている!わかっているけど・・・。怖いのだ!

見合ったまま30秒が過ぎた。ノアにも、そしてユキにも3分にも長く思えた。

すると大ねずみのほうが攻撃をしかけてきた!

「しゃー!」

ノ「ひぃぃぃ!」おののきつつも、ノアは懸命に身をかわした!運動能力のない少女ではないのだ。

しかし、また相手と見合って硬直してしまう。

ユ「ど、どうする・・・!?」ユキは心の中でかなり動揺した。一番弱いであろう魔物だ。それでもノアはおののいてしまう。おそらく、短剣で挑めば勝てる相手だ。だが、挑むことができないとなると・・・。これからどうすればいい!?魔物と戦ってお金を稼ぐことも、魔物を戦って道を切り拓くことも、この先必要不可欠なはずだ・・・!

ユキはしびれを切らし、自分で大ねずみを攻撃しようと反動をとった。

しかし!

そのとき、草陰からユキの背後を狙う新たな魔物が躍り出た!

ユキはまだその存在に気づいていない!

ノ「あぶない!!」ノアはとっさに、その新たな魔物に向かって短剣を構えて突進していった!

ブシュっ!

ギャー!

大ねずみに命中する!ノアは返り血を浴びる!

ノ「うわぁぁ!」気持ち悪い!怖い!!

ユ「なに!?」ユキは思いがけない状況にひるむ!

ノアの一撃では大ねずみを倒しきれない!奴は怒ってノアに反撃に出ようとする!

大きな爪で引っかかれたくなどない!!

ノ「うわぁぁぁ!!!」もう後戻りなど出来はしないと悟ると、ノアはなりふりかまわず大ねずみの懐まで飛び込み、短剣を四方八方に振り回した!

ザシュ!ブシュ!ザシュ!

ギャー!

大ねずみをやっつけた!

ノ「た、たおせた!!」

しかし喜んだのもつかの間、もう1匹の大ねずみがノアに復讐に向かう!

ノ「ひぃぃぃ!」ノアは怯んで顔を背けるが、今度は短剣を前に突き出した!

大ねずみは寸でのところで突撃を止める!

ユ「おとなしくしてろ!」その隙を見てユキはヤリで思いきり突き刺した!

大ねずみをやっつけた!

ユ「はぁ、はぁ、はぁ、倒せた」

ノ「はぁ、はぁ、はぁ。た、たおせたわ!」

2人は顔を見合わせる。微笑む余裕はない。

ユ「やれば出来るじゃないか!」ユキは意識的に微笑み、ノアの肩を揺すりながら言った。

ノ「できたわ!」ノアは震え引きつる顔で懸命に微笑んだ。

誰かを助けようとする状況のほうが、人は勇気や力が出るのかもしれない。


ノアは、タヌキ程度の大きさの獣には向かっていく度胸を得た。

その日は二人で、薄暗い森を彷徨いながら、何十匹かの大ねずみやいっかくうさぎをやっつけた。そして50ゴールドほどを手に入れる。

3日間は寝食を得られる金額だ。

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