第26節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』
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- 8月27日
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第26節
宿から外に出る。つい1時間前とは打って変わって、1日が終わる村は静かになっていた。
しかしどこかの方角でわいわいと騒ぎ声がする。否が応でも興味が引かれる。2人は声をするほうへ行ってみた。
見知らぬ女が、井戸のそばで歌いながら舞っているのだった。

女「君の前に広がる世界 果てしなく広く~
旅立ちを決めるのは 阿呆な歌のせいか~
旅立ちを助けるのは 阿呆な誰かなのだ~♪」
衆「わっはっは、いいねいいね!見事なもんだ」
衆「パチパチパチパチパチ!」
衆「美しいおなごだなぁ~」
ひらりん ひらりん
すたっ。
女「どうも。『阿呆(あほう)の旅』でございました」
すると聴衆の男たちが、女の足元にコインを数枚、ぽいと放り投げるのだった。
女「どうもどうも。ありがとうございます」
女は踊りの聴衆として見慣れない、若い男女の視線に気づいた。他所の者だ、と気づいて2人に興味を持つ。すると、
女「今日のところはここらでお開き。
また明日も来るやもしれぬ。来ないやもしれませぬ・・・。旅の踊り子は神妙鬼没・・・」仰々しくお辞儀をした。
すると聴衆は去っていくのだった。一人残る者がいる。
衆「どうだいお嬢さん、これから酒でも1杯?」
女「いいえご遠慮申し上げます。わたくしは平等主義なもんで」
衆「ちぇっ!」
すべての聴衆が去った。ユキも行こうとしたがノアはずっと彼女を見つめている。
すると、踊り子の女は2人に声を掛ける。
女「お2人さん、旅のもんだね?」ニヤっと笑う。先ほどよりも口調がざっくりしている。
ユ「旅?えっと、はい、旅の者です」
女「はは。お嬢さん、踊りをたしなむだろう?」
ノ「えぇ、どうしてわかったのですか!?」
女「同業者のよしみってモンだよ。はは。
あたしはモモ。桃源郷って民族のモンさ。あんたらは?」
コーミズ村の女はほとんどが踊り子の青年期を経て育つが、世界で見れば踊り子という人種はそう多いわけではなかった。そしてこの村に踊り子は皆無に見える。だからモモは、ノアに興味を持ったのだった。
ユ「ユキです」
ノ「ノアです」
モ「ちょっと座っていきなよ」モモは井戸を背に腰かけた。
ユ「ここに?宿の居間に行きませんか?もう暗くなってしまう」
モ「いいや、話ってのは色々あるもんさ。
ランタンがある。向こうの宿だろ?送ってやれるから安心しな」
ユ「あ、はぁ」
モ「はは、旅人だろう?色々話を聞きたいんだけどさ、その前にノアちゃん、あたしに何か聞きたいだろ?」
ノ「えぇ!なんでわかるのですか?」
モ「顔に書いてあるんだ。はは」
ノアはユキの顔を見る。ユキは首をかしげる。
ノ「この村は、踊りではお金は稼げないと聞きました。踊りは仕事ではないんですって。わたし昨日それを聞いて、ちょっとガッカリしたのです」
モ「はは、そうだね。
この村で踊っていたって、村長さんからお給金は出やしない。
でもね?人の世ってのは色々あるんだよ。
あたしが踊ってるのを見て気分がよくなれば、村人たちが1ゴールドや2ゴールドを投げてくれる。すると上手くいきゃ、日に15ゴールドは稼げる」
ノ「そうなのですか!」
モ「まぁ村長にバレたら怒られるかもしれないよ。村から追い出されるのかもしれない。踊り子なんて、カネが稼げるとしても信頼される稼業じゃない」
ノ「追い出されてしまったら大変です!」
モ「はは。そしたらまた違う村に行くのさ。あたしはそうして生きている。
あたしも、旅人なんだ」
ノ「そうなのですか!」
ユ「たった一人で!?」
モ「あぁ。一人旅だ」
ユ「たった一人で、なぜ旅をしているのですか?」
モ「はは。色々あるんだよ。
・・・まぁいいか」モモはいつものようにはぐらかそうとしたが、気が変わった。
モ「あたしね、15のときに、父親に恋しちゃったんだ」
ノ「お父さんに!?」
ユ「恋をした!?」
モ「はは、そうだよ。本当に恋をしてしまった。
そしたら母親に追い出されちまったってわけさ。それで村にも居られないから、仕方ないから旅に出ることにした。人を探しながら旅してるよ。もう5年にもなるかな。はは」
ユ「なんて人生だ・・・!」ユキは自分の人生は相当奇抜なものだと思っていたが、上には上がいるものだと仰天した。しかもか弱い女性だ。
ノアも同じだった。自分はユキが守ってくれるから村を出てこれた。しかし彼女は一人で村を出て、5年もさすらっているというのだ・・・!
世界は広い・・・!!


モモ
20歳 2月2日生まれ
163センチ 45kgくらい
好きなもの:踊り、オシャレ、装飾品、手芸、音楽、旅、おしゃべり、異文化、アウトローな人