エピソード109
教会のシスターは、れいに餞別を贈った。
シ「あなたに、1つ魔法を授けましょう。
《レミーラ》という魔法です。洞窟の中で、松明(たいまつ)の代わりに周囲を照らす魔法です。
炭坑で火を使う灯りをともすことは危険です。火はガスに引火しますから。
どうかこの魔法をお役立てくださいな」
れいは《レミーラ》の魔法をイニシエートしてもらった!
ユ「今日はひとまずお休みなさってください。2階に部屋を用意させます」
れいはガーデンブルグのお城の中で、ひとときの休息を賜った。
翌朝、れいは南の炭坑に向けて旅立った。
「護衛をお付けしましょうか?」と提案があったが、この辺りの魔物なられい一人で戦えるし、鉱山に連れて入ってもガスで倒れてしまうだけなら、居ないほうが良さそうだ。れいは一人で行くことにした。
ほどなく炭坑へと辿り着く。
たしかに、ここにはガーデンブルグの家と同じハチミツ色の岩がかたまっているのだった。
家作りだけでなく石材の採掘も女性たちだけで行っているのか、逞しいなとれいは感心した。
炭坑は確かに、入ったそばから妙な臭いがした。ガスはもう周囲に広がっているのだろう。しかしすぐに気分を悪くするほどのものでもない。
炭坑はその都合上、あちこちと道が枝分かれしていて、迷路のようで面白い。こういう依頼を引き受けるのはれいにとって悪くない。
やがて広い空間に行きつく。
壺が幾つも佇んでいる。お目当てのものはこれだろう。
数十もの壺がある。何往復するのも面倒だなと思ったが、自分は《ホイポイ》の魔法が使えることを思い出して、事なきを得た。
れいは鉱山の中をじっと見つめる。
ガスを止めてやる方法はないものだろうか?しばらく考えてみたが、思い当たらなかった。
ガスを吸わずにガスや石材の採掘が行えるように出来ないものだろうか?しばらく考えてみたが、思い当たらなかった。まぁいいか。
れいが城に戻ると、城壁街の外に女王やユーリや大勢の人が出迎えているのだった。
そして落胆の表情をしている。女王が皆の気持ちを代弁した。
女「あぁれいさん。やはり一人で壺を持ち帰るなんて酷な依頼でしたわね。いいのですよ。あなたは何も悪くありません」
れ「え?持ってきましたよ」
女「は!?」
するとれいは、《ホイポイ》と小さく唱えて、壺を次から次へと物質化してみせた。
女「なんとまぁ、絵に描いたような魔法使い様ですこと!」
周りのみんなも「おぉ!」と沸き返っている。
れ「いえいえ、これは冒険者には当たり前の魔法なんです」れいは頭をかいた。
城の者たちは早速、ここで気球の最終作業を始めた。そのために外で待っていたのだ。
学者のマゴットを中心として、大勢の人が作業を眺めている。詳しいことはわからなくとも、科学に多少の興味は抱き、そして出来そうなことは手伝いたい、という気概を多くの女性が見せるのだった。
「助け合う」ということが、染みついている民であるようだった。
「よし、飛べるはずだぞ!」マゴットは力強く言った。そしてバーナーに点火をする。
気球の袋が少しずつ膨らみはじめる。袋は温められた空気を吸い込みながら少しずつ膨らみ、そして宙へとふわふわ浮き始める。
「本当に浮いているわ!」女性たちが驚いている。
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