エピソード10 『トランク1つで生きていく』
私は翌日、メグちゃんに別れを告げて、京都の町を目指した。
電車を乗り継いで、無事京都駅にはついた。けれど。
はて、ゲストハウスとやらは、どうやって探せば良いのでしょうか?
私は、ゲストハウスというのはなじみがなくてよくわからない。
メグちゃん曰く、値段が安いので若者や外国人が好むらしい。
私は、大きなリュックを背負った外国人青年の2人組に、目をつけた。
きっとこの人たち、ゲストハウスとやらに行くんじゃないかな?
声をかける勇気はなく、その英語力もないので、
とにかく、スパイみたいについていくしかなかった。
二人は地図を眺めながら駅前を抜け、きょろきょろしながらいくつも信号を渡った。
あんな大きなリュックを背負って、そう長い距離を歩くことはないだろうと思ったのに、
そうでもなかった。
駅を出てから、かれこれ20分は経ってしまった。
信号を10も渡り、角を20も曲がった。
ひょっとして彼ら、迷子になったんだろうか?ゲストハウスってそんなに遠いの?
っていうか、私が迷子だ。もう駅までの帰り道はわからない。
っていうか、私が疲れた。トランクを持つ手がもうしびれてきた。
かといって、引き返すわけにもいかないし…
30分近くも歩き、彼らはようやく、歩みを止めた。
彼らの前に、私の前にたたずむのは、いわゆる「長屋」と言われる古京都風の、
風情ある建物だった。なかなかオシャレじゃないですか。
生木を使って作った、立派な看板が掲げてある。
「万屋」…まんや??ヘンな名前。
と思ったら、
「ヨ・ロ・ズ・ヤ!イグザクトリー!」と、外国人青年たちがハイタッチしていた。
あ、よろずや。そういえば、そんなふうに読むんだわ。
危なかった。店員さんに「まんや」とか言って恥をかくところだった。
彼らがチェックインを終えるのを待ち、私もフロントへと向かった。
フロントには、若い男の人がちゃらっと腕をつっぷしていた。
「あのう、住み込みヘルパーというのは、募集していませんか?」
「え?連絡とかいただきました?」
彼は慌てて、脇のパソコンをチェックしはじめた。
「え!?ごめんなさい。そういうのはしていないんですが…
予約しないとダメなんですか?」
「いや、欠員があれば予約が無くてもオッケーではありますけど…
えっと、何を?どういうことなんスか?」
ホテルのフロントらしからぬユルいしゃべり方だけど、
きっとこれがゲストハウスというものなんでしょう。
「あのですね、私、熊本地震で家を失くしまして…」
本当はもっと混み入った事情だけど、かいつまんで話した。愛子さんみたいにシンプルに、ね。
「へぇ!そりゃ大変でしたね!無事で良かったですね!
「だから、住まいと仕事を探してるんです。
そしたら、京都にゲストハウスっていうのがあるよって教わって…」
「そうなんスか。
オーナーに掛け合いますよ。優先的に雇ってあげてって。」
口調はユルいけれど、優しい人らしい。愛子さんと同じタイプかな。
「でも…」彼は話を続ける。
「ヘルパーって、給料安いっスよ?
今ウチで空いてる枠だと、朝の掃除で、
9時~12時までの3時間×週5で、給料2万です。」
「2万!?3×5×4で…60時間働いて、2万ですか!?」
「ベッドとまかないが付きますけどね。まかないの、食材だけね。自炊ッス。」
「2万…」
「でも、ウチはマシなほうっスよ。
これ以上働いて、ベッドしか付かないとこもあるし。
ベッド代が月4万相当だから、実質7万円くらいの価値ありますね。
60時間で7万だったら、悪くないでしょ。
それに、敷金礼金払わずに住むとこ確保できるのも、大きいっスよね。
だからけっこう需要あるんです。ヘルパーってのは。
まぁ、午後と夜はフリーだから、Wワークしてイイんですよ。
そしたら10万は稼げるから。暮らせないことはないです。」
「そう…ですか。」
得なのかなんなのか、いまいちよくわからないところもあったけど、
他にあてのない私は、この舟に乗っかってみるしかなかった。
受付の彼はオーナーに電話をしてくれて、
すると、「被災者の女性だ」と伝えるだけで、採用を決めてくれた。
「あんまりにサボるなら追い出すぞ」とクギを刺してはいたらしいけど、
要するに、被災者の私を配慮してくれたらしい。
ユルいなりに優しいんだなと、また思うのだった。
『トランク1つで生きていく』



