エピソード128
実は、れいが鎧型の防具にこだわったのにはもう1つ理由があった。
ラダトームをローブでうろついていると、やたらとパーティーに勧誘されるからだ。魔法使いが希少な職業だし、もう一人戦力を欲する者が多いのだろう。だかられいは、戦士に化けたのだ。実際、装備を変えると勧誘の声はまったく掛からなくなった。華奢な体のれいだ。戦士としては勧誘したいパーティーは少ないだろう。
また、美しいローブを着てさすらうことも充分堪能したので、少々無骨な格好になってもいいや、という良い意味での妥協心も芽生えてきたのだった。柔軟になってきた。
外に出て魔物と戦ってみる。
やはりローブよりも鎧のほうが、この辺りの魔物には適している。そしてやはり、鎧が重くて動きが少し鈍重になってしまった。強くなりたいし、新しい武器も欲しい。
しばらく戦ってみたが、得た宝石は400ゴールド分ばかしだった。武器も1万ゴールドくらいは要しそうな気がする。うーん。気が遠くなりそうだ。
「デイジーならこんなとき、どうするだろう?」と考えてみた。
そうだ。したたかなデイジーならこうする。王様の出すおふれを上手く活用するのだ。1万ゴールドを素直に貯めるより、宝石を100個集めて報奨金を貰ったほうが速い。
れいは報奨金のために魔物退治をするなんてことはポリシーに反するし、潜入捜査を決めたのはお金のためではなかった。しかしここでは、ちょっと腹黒そうな王様たちの策を濫用するような立ち回りでもよいだろう。
デイジーを「したたかだ」と褒めるなら、これもしたたかな戦略であるはずだ。
宝石100個は2日で貯まった。城に報告に行く。ちゃんと1万ゴールドと、宝石分のゴールドもくれた。合計1.4万ゴールドほどだ。
れいは駆け足で鍛冶屋へ赴く。
れ「鍛冶屋さん、お金を返しにきました!」
鍛「おぉ、速かったじゃないか!姉ちゃんにはいつもビックリさせられる」
お次は武器屋だ。武器の新調はやはりワクワクする。
れ「1万ゴールドちょっと予算があるんです。
勇者の洞窟に行くのに耐えられそうな武器といったら、どれが良いでしょうか?」
武「一人で行くのかい?お嬢ちゃんが?」
れ「はい。この辺りの魔物も戦えてますから、心配は要りません」
女一人で大丈夫なのか?という話題でいつも5分消耗することが、そろそろ面倒になってきた。だから先回りで「心配するな」と言うことにした。
武「ふうん。頼もしいこった。
そうだなあ。こんなのはどうだ?」
武器屋が披露したのは、金色に輝く、一点もののような立派な剣だ。青い宝石がところどころで光っていて格好いい。
れ「うわぁ・・・!」れいは感嘆の声を上げる。
武「カッコいい!って思ったろ?
でもこの武器の本領はみてくれじゃないんだぜ!
《奇跡のつるぎ》って言うんだけどな、これで敵を攻撃するたんびに、あんたの体力がちょっと回復するんだよ。
攻撃すると同時に《ホイミ》を受けるようなもんさ!」
れ「すごいです!」
武「まぁそのぶん値は張るよ。1本2万ゴールドだ。
でもコイツ、一生モノの相棒になりうるぜ!伝説の武器に匹敵するよ」
れ「2万・・・」
非常に高いが、王様の依頼を上手く使えばあと2日で貯められる額だ。
れ「あと2日間、取り置きしてもらうことはできませんか?」また前借りするわけにもいかない。
武「取り置きっていうか、まぁ二日後だって在庫はあるだろうよ。
一点ものに見えるかもしれないが、そうじゃないからな。まだ3本ある」
れ「そうなのですか」ちょっと安心した。
すごい武器をモチベーションに、れいはさらに2日間、戦闘訓練を重ねた。それはれいにとって、一石二鳥なものだった。体も強くしたかったところだ。戦闘訓練は大変だから、強力なモチベーションがあると捗る。
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