エピソード145
れいはボロボロの体を引きずって、なんとかラダトームの町まで戻ってきた。
城へ赴き、王に竜王の討伐を告げた。
しかし・・・
王「・・・して、その証拠は?」
れ「しょ、証拠?」
王「さよう。おぬしが竜王を討伐した証拠は?
それがなくてどうやって信じることが出来る?
誰かが討伐をでっちあげて私から莫大な報酬をせびろうとしたとき、証拠を見ずにどうやって信用すればよい?」
れいは当然ながら、竜王の首を持って帰っていたりはしない。日本の戦国時代とは違うのだ。
れ「私は報酬など求めていません」
王「それでも名声は手に入る。それは巡り巡ってカネになる」
れ「・・・わかりました。
私にはそれを証明する手段がありません。失礼します」
れいはそれだけ告げると、王の前から立ち去り、ラダトームをも去った。
れいは何の報酬も感謝の言葉も受け取ることはなかった。
そしてラダトーム王は、引き続き冒険者たちに魔物の駆逐のおふれを出し、金儲けを続けるのだった。
しかし、れいが竜王を討伐したことで、勇者の洞窟からは手強い魔物が湧き出なくなった。すると、この辺りにすでに徘徊していたそれらが駆逐されることで、ラダトームの周囲は再びスライムやドラキーばかりが生息するだけになった。
城の賢者は王に、竜王が討伐された可能性があると進言した。「勇者の洞窟に何が書いてあるかお忘れか?」と問うと、王はようやく偵察隊を彼の城へと派遣するのだった。そこに竜王の姿はなく、ラダトームの国自体は平和になった。
「いつぞやこの国に訪れたあどけない少女が倒したのかもしれない」と王は国民に発言した。国民の一部はそれを信じ、大部分は信じないのだった。
いつからかラダトームの街の夜では、時たまこんな歌声が聞こえる。
吟「最も重要な人助けは~ 誰にも気づいてもらえない~
それでも それでも 身を捧げる覚悟はあるか~」
思いがけず壮絶な、長い寄り道だったが、れいは自分が東の港町を目指していたことを思い出し、また静かに歩き出した。