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エピソード14 『トランク1つで生きていく』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月8日
  • 読了時間: 2分

「万屋」での私の仕事は、掃除だけで良かった。接客は含まれていなかった。

けれど、お客さんからすれば誰が掃除要員で誰が接客要員かは、わからない。

なので、私に声をかけてくる人も大勢いた。

それが日本人ならまだ良いのだけれど、京都は一大観光名所。外国人客も多い。

外国人と会話したことの少ない私にとって、外国人に話しかけられるとビビる。

相変わらず、英会話という英会話はこなせないのだけれど、

この仕事のおかげで、とにかく外国人に話しかけられることには、免疫がついた。


コウセイくんの言う「リスクマネージメント」を、私も考えることにした。

求人誌をもらってきて、バイトを探した。

居酒屋も悪くないと思ったけれど、

四六時中コウセイくんと居るのも、ちょっと気まずい。

ツブシの利く仕事ってほかに何かな?と考えて、スーパーを思い当たった。

駅前に大きなスーパーがある。何かしらあてがってもらえそう。

求人誌には「短期OK」と書かれていたから行ったのだけれど、

それはどうも、クレジットカードの勧誘員だけだった。

それだとあまりツブシは利きそうにない。

私はちょっと考えて、別に長期でもいいかなと、思い直した。

半年くらいはこの町に居てもいいかもしれない。


新しい仕事を始めるのは、とてもおっくうに感じる。

…もとの私は、そういうふうに感じる人間だった。

だから不動産の経理も、2年もずっと続けていた。

でもなぜか、スーパーの研修をそんなに苦痛に感じなかった。

これはたぶん、愛子さんの言う「のり付け」がされていないからだと思った。

震災のあとから、私の腰は常に浮き続けていて、とても軽い。

テンションは常に少し高めで、

だから、未知なることへの挑戦に、あまり不安やおっくうさを感じない。

なるほどな、と思った。愛子さんの言うとおりだ。



私は、午前中に掃除をし、昼間は軽く観光に出かけるかライターの記事を書き、

夜はスーパーのバイトに出た。夜中にはまた、ライターの記事を書く。

だいたいそんな生活スタイルを続けた。

コウセイくんはときどき、私を京都の観光に誘った。


おかげで私は、京都の観光地にとても詳しくなった。

詳しいとは言えないけれど、ずいぶんたくさんの名所を制覇した。

有名なところはもちろん、小さな庭寺にもたくさん行った。

カメラ散策の好きな私にとって、これはとても面白い日々だった。

毎日毎日、観光三昧。でも一日1箇所。だから焦らなくていい。

私の京都旅行は、3泊4日で終わったりはしない。焦らなくていい。

なんてぜいたくな日々だろう、と思った。

京都旅行は日本国民の憧れで、世界中の憧れだ。

私はそれを、日がなのんびり楽しんでいる。



『トランク1つで生きていく』

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