エピソード165
デイジーと別れるとき、デイジーは昔の戦士の英雄が造ったという凄まじいダンジョンに向かうと言っていた。デイジーは、この鍾乳洞のようなダンジョンを一人で平然と攻略する自信があったのだろう。すごい・・・!そして、もしあのときのれいがそれに同行していたら、おそらく途中で音を上げ、デイジーを困らせていただろう。「そっちの道はもう行ったよ!」と仲間割れをしていただろう。
今、一人で探索をしてみて理解したが、「そっちの道はもう行った」と思っても、それでも平然と何度も往復する根性、根気、達観、体力が必要なのだろう。「間違っている道は行かない」ではなく、間違っていても往復してやる、というほど肝が据わっていないと、ダンジョン探索は出来ない。もっと言えば、旅をするにもそうした効率無視な達観が要る。
一人旅の経験があり、一人でダンジョンや迷子や修羅場をくぐり抜けた経験を持つ者同士がパーティーを組まないと、パーティーというのは上手くやっていけないのだ。どうしても。それは優しさだけでは解決できない問題なのである。
時に、道はとても細く、さらに天井が低くなる。かがまないと進めないどころか、這いつくばらないと進めない。
地面は泥水で、体を泥だらけにしないと前に進めない。また精神的に大きなダメージを受ける。この辺りはもう、敢えて人工的にこうした道をこしらえている気がする。あぁ、きっともっと楽に進める道がどこかに隠されているのだろうが・・・もう仕方ない。
やがて・・・!
10時間にも及ぶ探索の果てに、大きな吹き溜まりに達した。
灯りを灯せる者のみが、そのまぶしさを目の当たりにする。
大きな大きな宝箱が鎮座し、その周りを無数の金貨や宝石が取り囲んでいるのだった。
れいは思わず、億万の大金に目がくらむが、それではいけないことを思いだす。私の場合、デイジーの《はやぶさの剣》を取り返しに来たんだったわ!
れいは宝箱の中や、金貨の山をかき分ける。中には剣もあるのだが、以前デイジーに描いて見せてもらった、ハヤブサの彫刻のついた細身の剣は、見当たらないのだった・・・。
れ「ここには無いなんて・・・!」
それはもう、落胆という言葉では言い表せない落胆であった。
体力も精神力も、もう底を尽きている。途中の道の、訪れていない分かれ道を探索する気力は、もうない。やはりそちらにあったのかもしれない。しかし、そもそもこの洞窟には無かった可能性もある。
《はやぶさの剣》が隠されている、という情報がダミーであった可能性もある。
誰かが《はやぶさの剣》や一部のお宝だけを、持ち去った後だという可能性もある。そうだ。れいしかここまで辿り着けないということもない気がする・・・。
れいは、どうすればよいのか迷った。朦朧とする頭で考えた。
普通、海賊の財宝というのは自分がせしめるために取りに行くものだが、れいはその大金を持ち帰ろうとは思わなかった。
それに、この財宝は、アドルという富豪から盗まれたものだと地図に書いてあった。これは、持ち主に返してあげるべきなのではないか?とれいは思った。
れいは《ホイポイ》の魔法を使って、財宝を凝縮した。
次は、村まで帰らなければ。
しかし、往路で体力も枯渇したうえに《はやぶさの剣》が無かったというショックで、れいはもう疲労困憊、限界であった。
そして、溜め池のところで水を一すくい飲んだところで、その場に倒れ込んでしまった。
こんなふうにして、屍は出来上がるようだ。
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